剣聖②
そんなクリスの姿。
それにアレンは話し始める。
瞳を闇で曇らせ、これまでに起こったこと。
それをぽつりぽつりと。
何故、自分が人間を見限ったのか。
そして何故、魔王側についたのかということを。
響く、アレンの言葉。
クリスはそれを、押し黙り聞いた。
ガレアもまた、瞼を閉じアレンの言葉を聞く。
腕を組み。アレンが人間にされた仕打ち。それに唇を噛み締めながら。
時間にして、数分。
だが、それでも二人には伝わる。
「やはり。人間というものは好きにはなれぬ」
瞼を開け、ガレアは口を開く。
「己の欲。それさえも制御できぬのか。聞いているだけでも気分が悪い」
嫌悪。
それを露わにする、ガレア。
そして。
「アレンよ、感謝する。よく話してくれたな。思い出したくもなかったであろうに」
優しく声を発し、ガレアはアレンのほうとへと歩みよっていく。
ゆっくりと。
まるで、アレンの心に寄り添うようにして。
そのガレアの姿と声。
それにアレンもまた、柔らかな声音で応えた。
「こちらこそ、ありがとうございます。こんな話を、最後まで聞いていただいて」
掠れた笑み。
それをこぼし--
「俺。この世界を救ったら聖女と結婚しようと思ってたんです。馬鹿ですよね。あははは。でも、はじめてマリアと会った時。とても胸の奥が温かくなったんです」
意識せずとも溢れる、アレンの涙。
それはまるで、壊れた蛇口のように止まることはない。
「でね。王様に褒美とかなんやらをたくさんもらって。俺の故郷をめちゃくちゃ大きくして。今まで俺を育ててくれた母さんと父さん。お店の人たち。幼馴染の……ソフィもいたっけ。あいつ俺が旅に出る時。泣きべそをかいてたんですよ?ははは。元気で。してて、ほしいな」
口をついて出る、アレンの思いのこもった言葉。
それと呼応し、アレンの足元にぽたぽたと涙が滴っていく。
「馬鹿。ほんとに、俺はバカでした。は、ははは。ほんとにほんとに」
その声と涙。
それを受け、クリスの瞳に宿るはアレンと同じ思い。
ゆっくりと立ち上がり--
「アレン。もういい。もう、話すな」
そう言葉を紡ぐ、クリス。
その瞳もまたアレンと同じように、潤んでいた。




