剣聖①
「剣を抜け、勇者」
己の剣。
その刃先でアレンを指し示す、クリス。
たぎる殺気。それと呼応し、吹き抜けるは風。
その風を受け、しかしアレンの表情は変わらない。
ガレアの前。
そこに佇み、アレンは声を響かせた。
「俺の障害。それになるのなら」
勇者の加護がひとつ、速さの加護。
それを自身にかけ、アレンはクリスに照準を合わせる。
そして、言葉の続き。
それを響かせた。
「たとえ、剣聖でも容赦はしない」
はっきりと。一切の躊躇いもなく。
己もまたその腰から剣を抜いて。
しかし、クリスは笑う。
「容赦はしない? 笑わせるな。それはこちらの台詞だ。世界を裏切り、守るべき人間を手にかけたお前が……よくそんなことをほざけたモノだな」
鼻で笑い。
「剣聖の加護がひとつ。剣術の加護」
呟き、自身の剣術。
それを極限にまで高める、クリス。
眩い光。
それに包まれる、クリスの身体。
そして。
「来い、アレン。勇者の加護。それごと俺の剣のサビにしてくれる」
剣。
それを鞘に戻し、クリスはとる。
居合の型。
その姿勢をとり、アレンを待つクリス。
二人の間。
そこに充満する、勇者と剣聖の加護。
「一太刀の下に」
クリスと。
「瞬きの間に」
アレン。
「「斬り捨てる」」
互いの胸中。
そこで呟かれる思い。
そして、アレンは駆け出す。
音を置き去りにし、稲妻の如き速さをもって。
舞い上がる、砂埃。
振動する大地。
だが、クリスはそれを真正面から--
「その程度、剣聖の加護の前では無意味。その身体ッ、切り捨てて--」
くれる!!
受け止めようとした。
だが、アレンの加護。
それは剣聖の言う通り、その程度ではなかった。
「勇者の加護がふたつ」
速度の加護×2
速度の加護。
それを重ねがけし、アレンの速度は更に倍になる。
例えるなら、稲妻ではなく光。
およそ人の目には捉えきれぬ、速さの極地。
「……ッ」
さしものクリスも、息を飲む。
見えない。
みえない。
ミえない。
アレンの姿。
それが全く。
見えなければ、己の剣術の加護など無意味。
これが、アレン。
これが、勇者の力。
「クリスさん」
「……っ」
クリスの背後。
そこに現れ、自分の剣を鞘に戻すアレン。
カチンッ
と染みる剣の収まる音。
そして続く。
「少しだけ。お話をさせていただけませんか?」
殺気の消えたアレンの声。
それに糸が切れた人形のように片膝をつく、クリス。
そのクリスの顔に滲む表情。
それは、生まれてはじめて真の強者を知った者の表情だった。
クリスの顔。
そこに滲む汗。
もはや、クリスにはできない。
アレンの言葉。
それを「戯言」と一蹴することなどできようもなかった。
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