女魔王①
日は既に落ちた。
静寂に包まれた魔王城。
その漆黒の玉座に、女魔王は座していた。
瞳は赤く、翼は漆黒。
だがその身からはおよそ人では醸し出せない妖艶さが漂っていた。
そんなガレアの側。
そこには漆黒を纏った闇精霊が小さな翼をはためかせている。
「ガレア様」
「なんだ?」
「勇者一行が間近の街にある宿屋に泊まっているようです。明日にもこの城にやってくるものと思われます」
「そうか。いよいよ、というところか」
微笑み、玉座から立ち上がるガレア。
その表情。
そこに滲むのは儚い思い。
勇者により倒された魔物たち。
それを思い出し、ガレアはちいさく呟く。
「待っていてくれ、我の配下たち。我もすぐにそちらに向かう」
勇者。
その力はもはや、闇の勢力を遥かに上回っている。
「フェアリーよ」
「はい」
「我が死した後、世界は光に包まれる」
「は……い」
涙ぐむ、フェアリー。
「だがいつか必ず。我は再びこの世界に顕現する、その時まで--」
フェアリーのちいさな頭。
それをやさしく指で撫で、力を分け与えるガレア。
「ガレア様。わたし、わたし」
「泣くでない。生き延びるのだ。魔族としての誇り。それを胸に秘め、生き延びよ」
「……っ」
眼下に佇む残り少ない配下の魔物たち。
皆、その目に涙を浮かべガレアに忠誠を誓う。
最後のその時まで、ガレアの為に死力を尽くすということを。
だが、そこに響く声。
「がッ、ガレア様!!」
慌てふためいたゴブリン騎士の声。
その声。
それにガレアを含む面々は、皆驚きの表情をたたえる。
そして。
「どうしたッ、なにがあった!?」
響く、ガレアの透き通った声。
慌てて玉座を降り、ゴブリン騎士に走り寄るガレア。
そんなガレアに、ゴブリン騎士は応えた。
息を切らし目を見開き--
「ゆ、ゆ、ゆ」
「ゆ? ゆ。がどうしたのだ?」
「ゆッ、ゆッ、ゆッ」
「だからどうしたのだ!?」
「勇者がッ、たった一人でこの城に!!」
途端。
ゴブリン騎士と同じように、ガレアの目が見開かれる。
そして、それと同時に響く靴音。
「ゆ、勇者だと?」
「は、はい」
「……っ」
唇。
それを噛み締め、ガレアは命を下す。
「皆のモノッ、戦の準備を!! 決して諦めるではない!! 最後のその時まで!!」
充満する、戦意。
皆臨戦態勢をとり--
だが、しかし。
ガレアの視線の先に現れた、勇者の姿。
そこには一切なかった。
かつての光に満ちた勇者の面影。
それが一欠片も。
あるのは--
「ガレア。少し話しがしたい」
闇にその身を委ねた一人の人間の姿だった。