聖女への進軍⑤
二人が領地に踏み込んだ瞬間。
「これは成程。この中では剣聖の加護があるというわけだな」
ガレアはその身に感じた。
勇者の加護とは違う、どこか冷涼とした加護。
まるでそれは、勇者が火だとすれば剣聖は水だと言わんばかりに。
「剣聖。自分がまだ人間側だった時に一度だけ会ったことがあります」
歩みを進めながら、アレンは言葉を紡ぐ。
前を見据えたまま--
「立派な方です。あの剣聖は」
クリスと交わした会話。
それを思い出す、アレン。
〜〜〜
"「勇者。俺は共には行けない。だが、君のその瞳。その覚悟は嫌いではない」"
"「ありがとうございます」"
"「そこでだ、アレン。俺の代わりにこの右腕を連れていってあげてはくれないか? 力は確か。しかしその心は未だ未熟」"
"「剣聖様よぉッ、わたしのどこが未熟だって言うんだ!? もはやあんた以外に居ねぇだろ? この私に勝てる奴なんて」"
クリスの言葉。
それに悪態をつき、ガルーダ舌打ちを鳴らした。
"「それに……ふんっ。てめぇみてぇなひよっこが勇者? にわかには信じられねぇな」"
"「ガルーダ」"
"「へいへい。わかりましたよ。行けばいいんだろ、行けば」"
"「あ、あははは」"
その時。
アレンは笑っていた。
ガルーダという名の女剣士。
それが仲間に加わるということに。
"「感謝する、アレン」"
表情は冷たい。
しかしその時のクリスの顔。
そこには確かに、仄かな温かみが宿っていた。
〜〜〜
「アレンよ」
「はい」
「それだけ立派な存在ならば、わかってくれるのではないか?」
立派なお方。
アレンの口からこぼれたその言葉。
それにガレアは疑問を呈す。
「お主になにがあったのか。それを話せば……或いはこちら側に--」
しかし、そのガレアの声を遮ったのは--
「アレン。そしてガレア。貴様らは剣聖がこの手で葬ってやる。剣聖の名の下。そして、この世界の為に」
混じり気のない殺気。
それに彩られたクリスの声だった。