聖女への進軍④
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剣聖の宮殿。
その中に広がる、剣聖の間。
そこには王にも劣らぬ豪奢な装飾が施されていた。
その空間。
そこに、剣聖は佇んでいた。
そして--
「今の話。それは本当なのか? 勇者が魔王側に寝返ったというのは」
厳かな声。
それを響かせ、剣聖は眼光を鋭くする。
剣聖の加護。それを自身にかけている、クリス。
なので、クリスは受けない。
勇者の加護。
それが消滅したことの影響。それを一切。
黒髪に、冷酷な眼差し。
そして、その表情には勇者に対する失意が滲んでいる。
そんなクリスの眼下。
そこには、命からがら魔物たちから撤退してきた兵士たちの姿と転移してきたゴウメイとマリアの姿があった。
「あッ、あぁ!!間違いねぇ!!」
「あの勇者様の姿ッ、あれは紛れもなく闇に染まった者のソレでしたわ!!」
自分たちは被害者。
あくまでそんな雰囲気を醸す、ゴウメイとマリア。
加えて。
「こ、このままでは世界は奴等の手に!!」
「く、クリス様。ど、どうかその加護で」
更に響く焦燥に満ちた兵たちと、
皆、その身には装備をつけている。
その理由。
それは剣聖の加護がこの空間には満ちているから。
己の腰。
そこにつけられた鞘。
そこから剣を抜き、クリスは一振り。
空気を切る音。
それが空間に浸透し--
「ということは、ガルーダも既に」
同時にクリスの無機質な声が続いた。
「え、えぇ。あの裏切り勇者の手で既に」
「お、俺たちはアレンを説得しようとしたんだぜ? だがダメだった」
応える、マリアとゴウメイ。
そして更に。
「わ、わたしたちは要塞より退却してきたので……あの村のことはわかりかねます。しかし、あの村は既に魔物の手に堕ちたとすれば」
「そのお二人方の言葉。それは充分に信用に値するかと」
二人の意見。
それに同意を示す、生気の消えた兵たちの声。
瞬間。
クリスの蒼の瞳。
そこに宿る明らかな敵意。
そして。
「勇者。その首、俺がとってやる。剣聖の右腕。それを弄んだ罪。償ってもらうぞ……オマエたちはここで待っていろ」
そう声を響かせる、クリス。
そして自身の加護。
それをたぎらせ、その足を踏み出したのであった。
だがクリスはまだ知らない。
なぜアレンが人間を見限ったのか。
ということを。
そのクリスの背。
それを見送り、ゴウメイとマリアは胸を撫で下ろす。
こ、これで。しばらくは大丈夫だろう。
クリスの力。
それがあれば、勇者もタダでは済まない。
運が良ければ、魔王と勇者を倒してくれるかもしれないと。
〜〜〜
剣聖の宮殿。
それを見つめ、しかしアレンの足は止まらない。
「アレン様ッ、これより先は剣聖の領地!! これまでのように一筋縄ではいかないかと!!」
響くフェアリーの声。
だが、アレンは動じない。
「剣聖は俺たちに任せてくれ。魔物たちは合図があるまでここで待機しておいてくれないか?」
「「かしこまりました!!」
魔物たちと荷物持ちの人間たちの同意の声。
それに頷き--
「魔王様。俺と一緒に」
「うむ」
アレンはガレアと二人で剣聖の領地に踏み込んでいったのであった。