聖女への進軍③
鍛治と商売。
それをなんの突拍子もなくはじめた魔物たち。
その魔物たちを見渡し、ガレアは声を響かせる。
「これで軍資金の心配はいらぬな。いや、待て。一体誰がその装備を買うというのだ? 装備ができぬ人間共。そやつらが購入するとは考えにくい」
「魔物同士で商売をするのですよ、ガレア様」
「お主ら同士で?」
「はい。いくら勇者様の加護により装備ができるようになったと言っても……装備の数が圧倒的に足りません。現に数万匹に分裂したスライムたちの装備。それが全く足りていない状況」
要塞の外。
そこでずらっと整列したスライム軍団。
その姿を頭に浮かべ、フェアリーはガレアへと鍛治と商売の正当性を語る。
そして。
「ちなみに払う対価はコレです。ゴブリン賢者さんッ、例のアレを!!」
高揚した声。
それを響かせ、ゴブリン賢者を呼び寄せるフェアリー。
フェアリーの声に、数匹のゴブリン賢者はとことこと歩み寄ってくる。
既にその身体には、魔物たちの裁縫技術によりつくられたローブ。それが、まとわれていた。
ガレアに頭を下げる、ゴブリン賢者。
そのゴブリン賢者に、フェアリーは一言。
「魔物の通貨。それをガレア様にお見せしてください」
「かしこまりました」
頷き。
「これでございます、ガレア様」
「ほぉ。これは、素晴らしい。我と勇者の名と顔が刻まれた金貨と銀貨。そして銅貨。ふむ。見れば見るほど素晴らしいではないか」
「これも勇者様の加護のおかげ。貨幣の鋳造。知能が賢者にならなければ、不可能だったことです」
アレンに感謝する、ゴブリン賢者と。
「こんなに素晴らしい勇者様を裏切った人間たちは本当に愚かとしか言いようがない!!」
人間たちの愚かさ。
それに呆れ声を響かせる、フェアリー。
そして、更に。
「ちなみに人間たちにはコレを売り捌く予定です」
ローブの懐。
そこから薬草を取り出し、ひらひらさせるゴブリン賢者。
それを手に取り、ガレアは微笑む。
「これもお主らが作ったのか?」
「その薬草はそこの兵士たちから奪ったもの。しかし栽培の知能。それを駆使すれば……それより遥かに優れたモノをつくることができます。それが人間共相手の主な商売道具。治癒魔法が使えぬ人間たちの必需品」
アレンによる賢さの加護。
その影響の凄まじさ。
それをガレアは身にしみて実感する。
「アレンよ」
「はい、魔王様」
「我はお主に感謝しかない」
「当たり前のことをしたまでです」
ガレアの声。
それに笑顔で返し、アレンは空を見上げる。
「人間共の時代はここで終わる。いえ、終わらせます。どんなことがあろうと絶対に」
闇に染まったアレンの双眸。
その闇が晴れること。
それはもう、二度とない。
吹き抜ける風。
それに髪を揺らす、アレン。
その姿に、ガレアは呟く。
「初代の魔物の王。それもあのような姿だったのだろう。勇者。いずれは魔王と呼ばれる日。それが来るやもしれぬな」
己の胸中。
そこで、アレンに対する思い。
それを織り交ぜながら。
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