聖女への進軍②
そんな抵抗を諦めた兵士たち。
その者たちに、フェアリーは声を響かせる。
兵士たちの頭上。
そこでくるくると旋回し、怯えた表情を浮かべる人間たち。それを見下ろしながら。
「まもなく人間たちの時代は終わりを迎える。だが、魔物のために働くというのなら……命まではとらぬ。命などいらぬ者が居るのならッ、今この場で手を挙げろ!!」
そのフェアリーの声。
それに手を挙げる者など居ない。
皆、死にたくないに決まっている。
「がッ、魔王様万歳!!」
「わわわ。わたしたちは魔物たちの従順な労働力。なんなりとご命令を」
「お、お茶汲みでもなんでもやらせていただきます!!」
男はふんどし一枚。
女は下着一枚。
その鎧と剣を装備できなくなった兵士たち。
兵士たちは魔王への忠誠を誓い、ぎこちない笑みを浮かべながら拍手を響かせる。
響く拍手。
それを聞きながら--
「よしッ、まずは瓦礫を片付けろ!!」
フェアリーは命を下す。
「「かしこまりました!!」」
フェアリーに従う兵士たち。
そんな人間たちの姿。
それはこれから支配される種族そのもの。
「フェアリーよ」
「はい、魔王様」
ガレアに名を呼ばれ、ぱたぱたとガレアの元へと飛んでいくフェアリー。
「あまり人間共に甘さを見せるでない。いつか足元をすくわれるやもしれぬ」
「承知しております」
頷き。
「ほらそこの人間ッ、もっとキビキビ動け!! ケルベロスの餌にするぞ!!」
「ひっ、ひぃ」
フェアリーの怒声。
それに怯え、涙目で作業をこなしていく人間たち。
「単純な労働力。その価値しか人間らにはない!! 勇者様に見放された時点ッ、それでオマエらは既に詰みなのだからな!!」
声を響かせ、フェアリーは人間たちに目を光らせる。
その光景。
それを見つめ、しかしアレンの表情は変わらない。
人間たちに対する哀れみ。
それは既にアレンの中には一切ないのだから。
そんな勇者の姿。
それを魔物の奴隷と化した兵士たちは、絶望に落ちた表情で見つめる。
「ゆ、勇者が魔物についてる……だと?」
「お、終わりだ。完全に」
「こ、この魔物たちの強さと勢い。お、俺たち人間はもって数ヶ月。いや、もっと短いか」
「お、終わったわ。なにもかも」
「み、みろ。瓦礫で鍛治までやりはじめたぞ」
「えっ。えっ。既にお店を開いてわたしたちの剣とか鎧を売ってるんだけど?」
全てを諦め、魔物たちの指示の下。瓦礫を片付けていく人間たち。
そして人間たちは、鍛冶や商売をはじめた魔物たちの姿に絶望。
その有り様。
それはまさしく、人間と魔物の上下関係が完全に入れ替わろうとしているのをはっきりと表していた。