聖女への進軍①
森を抜け、小高い丘の上に到着したアレン。
そこから見えるは--
砲台。
それを兼ね備えた立派な要塞。
それを見据え、アレンは声を響かせた。
「作戦名--突撃。あの程度の要塞ならスライムだけで充分」
肩に乗った一匹のスライム。
それに対して。
〜〜〜
「くッ、くそ!! なんとか救援が来るまで持ち堪えろ!! 相手はただのスライムだぞ!!」
「でッ、ですが!! その強さは尋常ではありません!! 今までビクともしなかった防御壁ッ、それがスライムの突撃で粉々に粉砕!! あそこまで強いスライムなどッ、見たことがありません!!」
「へッ、兵士長!! 救援はッ、救援はまだですか!?」
「既に兵の三分の一は壊滅状態ッ、この要所が陥されるのも時間の問題かと!!」
轟くふんどし一枚の兵たちの声。
皆、装備さえもできないのだ。
そしてその声は、魔王城から最も近い要塞の中の声だった。
周囲を堅牢な壁に囲まれた、その要塞。
それは魔王城を監視する為に作られた要所。
「くっ。い、一体なにが起こったというのだ」
勇者の加護。
それが消滅したこと。
それをまだ、ここの兵たちも理解していなかった。
そしてそこに更に響く声。
「おッ、終わりだ!! なにもかもおしまいだ!!」
高く聳える監視塔。
そこの監視兵が見たもの。
それは--
「スライムの大群。その数ッ、およそ数千!!」
「なッ、なんだと!? 数千!?」
「はッ、はい!!」
だが、しかし。
「てッ、訂正します!!」
血の気を引かせ、監視兵は息を飲む。
そして、叫ぶように声を張り上げた。
「すすす。スライムたちが更に分裂!! 一瞬にして数万に膨れ上がりました!!」
そして皆、抵抗を諦め降伏の準備にとりかかる。
「しッ、白旗の準備を!!」
「そうだッ、そうだ!! 俺たちはこんなところで死にたくない!!」
「ええいッ、鎮まれ!! 最後の最後まで戦うことこそ兵の役割だ!! いいから剣をとれ!! これは命令だ!!」
焦燥し、声を張り上げる兵士長。
しかし、その刹那。
ぴょんっ
と、一匹の羽スライムが飛来。
そして。
「きゅぴ!!」
と鳴き声をあげ、たった一匹で要塞内部を蹂躙したのであった。
〜〜〜
廃棄となった要塞。
その中に足を踏み入れ、アレンは声を響かせる。
「作戦名--修復」
途端。
賢さが賢者並みになった魔物たち。
その勇者の加護を得たモノたちは、要塞を第二の魔王城にすべく一斉に修復にとりかかるのであった。
その光景。
それを見つめながら--
「我も手伝おう。修復の魔法でな」
ガレアもまた自分で創造した魔法を発動。
降伏し魔王に下った兵たち。
その面々は、アレンの凄まじい力。
それを固唾を飲んで見守ることしかできなかった。