水の加護⑧
しかし、アレンの表情は変わらない。
雷の加護。
脳裏に浮かぶ、それを操る少女の姿。
セシリアに退けられ、しかし、トドメを刺されなかったそのモノの姿。
拳を固め、アレンは、踵を返す。
瞳に揺らぐ光。
身からたぎる、勇者のオーラ。
「遮断の加護」
マリアとランスロット。
その二人の周囲に遮断を施し、外から干渉できぬようにして。
三度、響く雷鳴。
揺れる、空間。ぱらぱらと、天井から降り注ぐ砂の欠片。
それを身に受け、唇を噛み締め、アレンはそこから立ち去ったのであった。
〜〜〜
「アレン。アレン」
勇者の名。
それを呼び、両手を広げ、空を見つめる少女。
空が暗転し、稲光が周囲を包む。
魔王城。
その全てを、少女の加護は覆う。
それはまるで、雷雲の中に空間を収めたかのようだった。
「なんだ、雷娘。また、きたのか?」
「ふむ。セシリア様にトドメをさされなかったという幸運。それを無駄になされるおつもりか?」
視線の先。
そこに佇む少女。
その閃光纏う少女に対し、ゼウスとブライは眼光を鋭くし声を投げかける。
しかし、少女は感情無き表情で答えた。
「貴方たちに用はないの。はやく、アレンを。勇者を。勇者を。アレン。アレンを。はやく」
揺らめく少女の金色の髪。
呼応し、周囲を囲む雷雲より、無限に近い数の剣が刃をのぞかせる。
それは、雷がカタチをとったモノだった。
「雷の加護。わたしを捧げて、貰った加護」
「あなたたちのような矮小なモノたちが、私に抗えるはずなんてない。できるはずがない。理解できるはずもない」
微笑む、少女。
その少女に、ゼウスは声を発する。
「理解しようとも思わねぇよ、雷娘」
ゼウスは眼光を鋭くした。
「ふむ。その通り」
ゼウスに同意し、ブライもまた少女への敵意を露わにする。
しかし、少女の笑みは崩れない。
「アレン。アレンを出して」
「アレン。アレン。アレン」
二人など眼中にない。
そう言わんばかりの少女の雰囲気。
「用はない。ないの。貴方たちに用なんてない」
「消えろ。わたしの前から消えろ」
「消えるのはてめぇだ」
「セシリア様のように。ゼウス殿とわたくしは甘くはないですぞ」
敵意という名のオーラ。
それをたぎらせる、二人。
少女は、未だ微笑む。
そして、互いの敵意がぶつかり合いそうになったーー瞬間。
「結界の加護」
声が響き。
魔王城全て。
そこに結界を施しーー
「……」
アレンはそこに現れる。
勇者のオーラ。
それをたぎらせ、ただ一点に、雷の加護を纏った少女をその瞳に収めながら。