水の加護⑦
〜〜〜
「なぁ、マーリン」
「なに?」
「人を生き返らせるーー本物の聖女の加護。なんて、ほんとにあるのか?」
「フェアリー。わたしを疑っているの?」
「いや、そんなことはねぇ。ただ」
「ただ?」
「死んだ人を生き返らせる。んなこと、ほんとにできるのか? 色んな加護。それを操る勇者様でもできねぇことだろ、ソレ」
「どんな力でもできないことはある。万能な力。欠点のない力……なんて存在しない。いつの時代も。どんな世界でも。色んな書物にもそのことがしっかりと書かれている」
ランスロットの亡骸。
それが置かれた台座の側。
そこで、フェアリーとマーリン。そしてヨミは、真剣な顔で会話を交わしていた。
そして、フェアリーは言葉を続ける。
マーリンの頭の上。
そこに腰を下ろしーー
「代償はないのか?」
「なんのこと?」
「その。人を生き返らせることに対しての代償。その力を使った者に対する代償。はないのか?」
「それは」
目を伏せる、マーリン。
そして、マーリンが意を決し言葉の続きを発しようとした瞬間。
三人は感じる。
もう一人の気配。
それを鮮明に。
気配のした方向。
そこを見つめる、三人。
果たして、その三人の視線の先には純白のローブに身を包んだ人物が佇んでいた。
その者の名。
それを、フェアリーは呟く。
「マリア」
そう小さな声で呟いたのであった。
そんなフェアリーの声。
それに、目を伏せるマリア。
そして、そのマリアの側に佇むはアレン。
瞳に宿るは光。
表情は、先ほどとは違い弱気なものではない。
そんなアレンの姿。
オーラの変わった、アレンの佇まい。
フェアリーは、その雰囲気に見る。
こちら側につく前の勇者の姿。
それを確かに。
「ゆ、勇者様」
フェアリーの口。
そこをついて出る、思いのこもったアレンの名を呼ぶ言葉。
そして、それはマーリンとヨミも同じだった。
「……っ」
僅かに後退る、マーリン。
圧倒的な加護の力。
それにより自信をへし折られた、マーリン。
その時の勇者。その姿を、マーリンは思い返す。
「こわい。こ、こわい」
マーリンのローブ。
その裾を握り、勇者を本能的に恐れるヨミ。
何度も勇者に死を与えられた、ヨミ。
記憶にはない。しかし、ヨミは心の底から勇者を畏れてしまう。
だが、アレンは三人に問いかける。
優しく。柔らかな声音で。
「少し。時間をくれないか?」
「俺とマリア。そして、ランスロットだけの時間を」
「あ、あぁ」
頷く、フェアリー。
倣い。マーリンとヨミも震えながら頷く。
そして、三人はアレンの意に応えその場を離れていく。
静まり返る、空間。
そこで、アレンはマリアの肩に手を載せる。
その顔。それは、人ではなく勇者そのもの。
マリアはそれに頷き、ゆっくりとランスロットの元へと歩み寄っていく。
そして、ランスロットの側で両膝をつきーー
静かに、マリアはその冷たい手のひらを握った。
漂う金色の光。
瞼を閉じる、マリア。
だが、その刹那。
みしりと。
空間が揺れる。
呼応し、轟く雷鳴。
そしてそれは、明らかに、外から響いたものであった。