水の加護④
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「ランスロットの手が温かい? そんなことあるわけないだろ」
「で、でもほんとに」
「本物の聖女の加護。それがないと死んだ人間は蘇らない。そう言ったのは、賢者。あんただぜ?」
「確かに言った。で、でも。ほんとにほんのり温かった。ねっ、ヨミ」
「う、うん。温かった」
空中で腕組みをし、胡座をかくフェアリー。
その姿を見上げ、マーリンはヨミと手を繋ぎ、ランスロットの手のひらの温かさをフェアリーへと伝えていた。
しかし、フェアリーは信じない。
「ははん。さては、あたしを揶揄おうとしてんだな? 二人で口裏を合わせて。そもそも。本物の聖女って概念もよくわからねぇ。聖女は聖女じゃねぇのか?」
「貴女を揶揄ってなんの意味がある。それに、本物の聖女。という言葉の意味もちゃんとある。ねっ、ヨミ」
頷き。マーリンに同調する、ヨミ。
そんな二人の姿。
それを、フェアリーはまじまじと見つめる。
そして、声を発した。
「まっ。いずれ教えてくれ。それに、ランスロットが温かい、ね。期待はしといたほうがいいかもな……ってなわけで。あたしも触りに行く」
言い残し。
ランスロットの亡骸の元へと、フェアリーは急ぎ飛んでいく。
そのフェアリーの姿。
それを見つめ、マーリンとヨミもまた顔を見合わせーー
「わたしたちも行こう」
マーリンの言葉。
それにヨミは頷き、二人は小走りでフェアリーの後を追っていったのであった。
〜〜〜
魔王城の外。
そこでアレンは一人、佇んでいた。
"「本物の聖女の加護」"
その言葉を思い出し、かつてのマリアの姿を脳裏に描くアレン。
穢れる前の姿。
それを思い出しーー
しかし、アレンは未だマリアを受け入れようとはしない。
スズメの思い。セシリアの思い。皆の思い。
それは、アレンにもわかる。
しかし、アレンは、マリアのことを【聖女】とは決して認めること等できない。
拳を固め、風に髪を揺らすアレン。
っと、そこに。
「よっ、アレン」
声が響く。
アレンは振り返る。
果たして、そのアレンの視線の先に立っていたのは、
「スズメの帰りがおせぇからこの辺をぶらついてたんだが……相変わらずなにもねぇな、ここ」
そんな声を発し、腕組みをするゼウス。
その人だった。
そしてその後ろから、更にもう一つの声が響く。
「ゼウス殿。ぶらぶらせずに、城門前で大人しくスズメ様の帰りを待ちましょうぞ。スズメ様がお戻りになられたらわたくしたちを探す。という手間をかけさせない為に」
年老いた声。
それは、ブライの声だった。




