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水の加護②

〜〜〜


「ゆうしゃさま」


「わたしはおおきくなったらゆうしゃさまになります。ゆうしゃさまになって。みんなをとてもしあわせにしてあげます」


暗い意識。

その中に、声が響く。

呼応し、暗闇に広がる光景。


朧げな暖炉の灯火。

その前で胡座をかき、青髪の幼子は「ゆうしゃ」への憧れを、瞳を輝かせ紡いでいた。


「ランスロット。ご飯ができたわよ」


響く、優しい母の声。

それに、ランスロットは振り返り、花のような笑顔を浮かべ、立ち上がった。


「どうしたんだ、ランスロット。なにか楽しいことでもあったのか?」


「うん。ゆうしゃさまのことを考えていたの」


「また、勇者様のことを考えていたの? ほんとにランスロットは勇者様のことが大好きなのね」 


「うんっ。だいすきっ」


「ははは。それぐらい剣の稽古も好きになってもらいたいものだ。聞いたぞ、ランスロット。また剣術道場を抜け出したらしいな」


父の言葉。

それにランスロットは、「ご、ごめんなさい」と素直に謝る。


「はぁ。そんなことじゃ勇者様になんてなれないぞ」


「あ、あしたから。がんばる」


「約束だぞ? 父さんと指切りだ」


とてとてと走り寄りーー


「やくそくっ」と声を発し、ランスロットは幼き笑みをもって父と指切りをする。


その光景。

それを母は微笑ましく見つめ、優しくランスロットの頭を撫でたのであった。


〜〜〜


ランスロットの亡骸。

それが安置されている空間。

そこに、幼い声が響く。


ランスロットの生気のない顔。

それを見つめ、「泣いてる」とヨミは呟く。


ランスロットの頬。

そこを伝う一筋の水滴。

それに気づいた、ヨミ。

しかし、それをマーリンは遮る。


「死者が泣くことなんてない。きっとなにかの見間違い。瞼の下に溜まっていた水分。それが流れただけ」


「夢。夢で泣いた」


「夢? 死者が夢なんて見るわけないよ」


「……」


マーリンの淡々とした声。

それにヨミはしかし、ランスロットの顔から目を離さない。


「手。冷たい」


そっと。

ランスロットの手を握り、ヨミは声をこぼす。


「でも。まだ、少し。温かい」


「温かい? そんなはずない」


ヨミの言葉。

それにマーリンもまたランスロットの手を握る。

そして、僅かに目を見開く。


「ヨミ」


「はい」


「さっきの話。泣いてたって話。もう少し詳しく、話して」


「うん」


〜〜〜


「……っ」


格子の向こう。そこに佇む、アレンの姿。

それに怯える、マリア。

牢屋の片隅。

そこに身を寄せ、マリアはその場に崩れ小刻みにその身を震わせていた。


そんなマリアに、アレンの側に立つスズメは声をかける。


「マリアさん」


しかし、マリアは答えない。

こちらを見据える、アレンの眼差し。

それに、マリアはその瞳から涙を垂れ流すことしかできない。


その姿に、スズメはアレンを一瞥。

そして、アレンは口を開き、


「マリア」


「少し話がしたい」


そう声を響かせたのであった。


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