水の加護①
「身体のほうは大丈夫か?」
「あぁ」
魔王の問い。
それに、アレンは頷き応える。
しかしその顔はやつれ、いつもアレンのソレではない。
そのアレンの雰囲気。
それに、スズメは悟る。
「アレンくん」
響く、スズメの悲しげな声。
その声。
それに、アレンは答えた。
「ごめんなさい、スズメさん。俺のせいで、セシリアさんが」
染み渡ったアレンの声。
スズメはそれにゆっくりと首を振る。
そして、柔らかな声音で答えた。
「謝るのはわたしのほう。ごめんなさいね、アレンくん。辛い思いをさせてしまって」
「スズメ、さん」
俯く、アレン。
しかしそのアレンの肩に、「よっこらせ」という声と共にちいさな重みがかり、同時に声が響く。
「勇者様。前に進もうぜ」
「こんなとこで留まってちゃ。その、悲しいだけだし」
果たしてその声は、フェアリーの声だった。
「あたしだって悲しいさ。いろんなことがあって。ガレア様だって、魔王様だって。きっと辛い。かくいうあたしだって今にも泣きそうなんだ」
フェアリーの震え声。
アレンはそれに聞き入る。
そして、アレンの側に寄り添うように立つガレアもまた瞳を潤ませながら、フェアリーの声を聞く。
「けど、けど。前に進まなきゃ。なにも変わらない。セシリアだって、勇者様だって。その他のみんなの為すべきだったこと。それをこんなところで止めちまうなんてこと。あってはならない。と、あたしは思うんだ」
響いた、フェアリーの思い。
それを聞き終え、静かにパチパチと拍手をするマーリン。
呼応し、ヨミもまたアレンを怯えながら、ちいさく頷く。
「たまにはいいこと言う」
「ふむ。さすが、フェアリー」
「ぐるるる」
フェアリーの言葉。
それに魔物たちは、それぞれ感心の意を示していく。
アレンとガレア。
その二人も、頷く。
アレンの目。そこには未だ涙が滲み、潤んでいる。
だが、僅かにその瞳には光が宿っていた。
そしてそれは、魔王とスズメもまた同じ。
二人はその瞳に仄かな光を宿し、言葉を交わす。
「ふふふ。火花を散らしあったわたしたちの時代。それから、随分と変わりましたね」
「……」
無言で思いを馳せる、魔王。
「魔物と勇者。闇と光。それの対を為す存在が手を取り合う世界。セシリアさんが望んだ、そんな世界。それが実現できるかもしれない」
響く、スズメの声。
そこに宿るは、儚い思い。
魔王とスズメの視線の先。
そこに広がるは、和やかな光景。
そして、その光景を見つめ、魔王はその胸中で呟く。
"「この世界には、未だ、お主が必要のようだ。我ではなくお主がな」"
赤髪を揺らす、セシリア。
その姿を思い、魔王はなにかを決意し、ちいさく笑みをこぼしたのであった。




