雷鳴③
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揺れる、蝋燭の火。
その灯火に照らされ、台座に横たわったその者の身。
そこから漏れるは、仄かな青のオーラ。
そんな亡骸と化した青髪の女性を側。
そこに佇み見つめるは、かつて冥府に支配されし少女。
名はヨミ。
真紅の双眸に、銀色の髪。
その身には黒を纏い、その肌の色はどこまでも白くそして透き通っていた。
ゆっくりと、ヨミは頬を撫でる。
冷たくなった女性の頬。
それを優しく、まるで慈しむように。
そして、名を呟いた。
「らんす、ろっと」
と、掠れきった声で呟いたのであった。
〜〜〜
魔王城。
そこにある、一室。
その中でベッドに腰掛け、アレンは虚な瞳をもって天井を見つめていた。
"「寂しかった。せつなかった」"
聞こえた声。
それにアレンは、問いかける。
「ソフィ。俺は、どうすればいい?」
己の胸中。
そこで痛む心を堪えながら。
滅ぼして欲しい。
救うなんて考えないで欲しい。
「……っ」
頭を抑え、アレンはソフィの声に苛まれる。
そんなアレンの姿。
それを窓の外からこっそり見つめる、フェアリー。
そしてその表情を曇らせ、フェアリーは静かにその場から飛び去る。
"「フェアリーよ」"
"「はい、ガレア様」"
"「アレンの様子。それを伺ってきてはくれぬか? 」"
"「かしこまりました」"
その自分とガレアとの会話。
それを思い出し、「ガレア様。アレン様は色々とお抱えになられております」そう呟き、フェアリーは微かに瞳を潤ませたのであった。
「ガレア様」
「フェアリー、戻ったか」
「はい。あれ? 先代様はどこに?」
「少し席を外しておる。して。アレンの様子は?」
「……」
目を伏せ、玉座に座すガレアの元へと近づいていくフェアリー。
そしてガレアの肩に腰を下ろし、言葉を続けた。
「アレン様はたくさんのお悩み事を抱えておられです。あのバロールとの一件。そして元勇者様との一件。それにより、たくさんの」
先刻見たアレンの姿。
それを思い出し、フェアリーは涙ぐむ。
「ガレア様」
「魔物たちがアレン様の為にできること。それがあれば」
「フェアリーよ」
「はい」
視線を前に向けたまま、ガレアは声を発する。
出会った頃のアレンの面影。それを思い出しながら。
「アレンは強い」
「身も心も強い。そう我は思っておる」
響くガレアの言葉。
それにフェアリーもまた頷く。
「だからこそ」
ゆっくりと玉座から立ち上がる、ガレア、
そしてその瞳に光を宿し、言い切った。
「我はそんなアレンの側にどんなことがあろうと寄り添うつもりだ。たとえ、アレンがこの世界を滅ぼすという選択をとったとしても……我は、アレンの側に」
「ガレア様」
ガレアの意思。
フェアリーはそれを受け、自らまた頷く。
「わたしも。ずっと、ガレア様とアレン様のお側にお仕えします。なにがあっても絶対に」
そのフェアリーの声。
それに微笑み、ガレアは更に言葉を続けた。
「だが、我は信じておる」
瞼を閉じ、ガレアは己の胸に手を当てる。
「アレンのことを。なにがあっても」
反響する、ガレアの声。そこに宿ったガレアの意思。
それは決して揺らがない。
アレンを信じる、ガレアの思い。それは決して。
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「俺の故郷に行ってもいいですか? ソフィに。これまでのことの報告がしたくて」
翌朝。
アレンは、ガレアへと問いかけた。
心の痛み。それを顔に出すことなく、いつもの表情でアレンは声を響かせた。
そのアレンの問い。
それに、ガレアは答えた。
「我に問う必要などない。アレン、お主がそうしたいのなら」
優しく笑う、ガレア。
その笑顔。それにアレンもまた柔らかな笑みをもって応えた。
そして踵を返し、玉座の間を後にしようとするアレン。
その背を見つめ、クリスはアレンに声をかける。
「アレン」
「はい」
「一人で大丈夫か?」
「はい。クリスさん、ありがとうございます」
クリスの気遣い。
アレンはそれに礼を述べ、歩みを進めていく。
胸を抑え、ソフィの面影に痛みを堪えながら。
そのアレンの姿。
それにクリスとガレアは互いに視線を交わし、ちいさく頷き合ったのであった。
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