雷鳴②
包まれゆく、温かな空気。
だが、世界はソレを許さない。
「みんなを救う? ずいぶんと威勢のいいことを」
アレンの頭。
その中に響く声。
その声にアレンは、目を見開く。
「ソ、フィ」
「アレンが、世界を許しても。わたしは世界を許さない。憎い。憎い。憎い。痛かった。寂しかった。アレン。わたしはずっと。貴方を待っていた。なのに、貴方は来なかった。寂しかった。せつなかった」
「……っ」
決意をし光に満ちたはずのアレンの双眸。
それが揺らぐ。
「光と闇。そんなモノより。そんなモノより」
「わたしは、アレンに。復讐をしてほしい」
「このセカイを滅ぼして欲しい」
「救うなんて。考えないでホしい」
心に突き刺さる、ソフィの言葉。
本当にソフィのモノなのか。アレンにはわからない。
しかし、アレンは聞いてしまう。
ソフィの声を、聞いてしまう。
虚になり、アレンは片手で額を抑える。
「俺は、大切なヒトを奪ったこのセカイを」
救いたい?
滅ぼしたい?
光と闇。そんなモノより、モノより。
「アレン?」
様子の変わった、アレン。
それに気づき、ガレアは名を呼ぶ。
「どうしたのだ? 顔色が」
「俺は」
自分を見つめる、ガレア。
その顔に、アレンは呟いた。
「ーーさない」
「ーーたくない」
"「最後の最後まであの村の連中ッ、アレン様アレン様ッ、って叫んでいたらしいぜ!!」"
こんな世界ーー
「アレン」
アレンの頬。
そこに触れる、ガレアの仄かに温かい手のひら。
その手のひらを握り締め、アレンは答えた。
「大丈夫、なにもない。ごめん。心配をかけて」
瞳に光を宿し、微笑むアレン。
そんなアレンに、ガレアは問いかけた。
「本当に大丈夫か?」
「はい」
「……」
こちら見つめる、アレンの顔。
それをじっと見据え、ガレアは頷く。
「なにかあれば我に。些細なことでも、なんでも。話してくれ」
「はい」
笑みを崩さず、頷くアレン。
その姿。
それにガレアも三度頷き、アレンの手のひらをぎゅっと握りしめた。
しかし、ガレアにはわからなかった。
アレンの心。
そこに芽生えてしまった微かな痛み。
小さな小さな針で何度も何度も突き刺されたような、そんな痛み。
それがアレンの中に芽生えてしまったことを、知る由もなかった。
〜〜〜
「バロール。消えちゃった」
バロールの気配。
それが消えたこと。
それを肌に感じ、その少女は呟いた。
ぱちっ
正座をする少女の身。
そこに迸る、稲妻。
「バロール、消えちゃったの」
「……」
響く、少女の声。
それに側に佇む者は静かに瞼を開いた。
そして、声を発した。
「そうか。ならば次は」
「いっしょに行く。わたしも、いっしょに」
ぴょんっと立ち上がり、その者に縋る少女。
「行こう。はやく」
目を見開き、その瞳に雷を宿す少女。
その眼差し。
それを受け、その者はちいさく頷く。
そして。
漆黒を纏い、少女と共にその身を翻したのであった。
〜〜〜




