表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/128

雷鳴①

そのセシリアの仲間たちの姿。

それに、魔物たちも涙ぐむ。


「お、おい。なに泣きそうになってんだよ」


「そ、そういうあなただって」


「せ、セシリアは魔物オレたちの天敵だろ? そ、それなのにどうして」


「あ、あいつ。自分の命をかけてーー」


「言うな。い、言ったら……言ったら」


「わおーん」


身を寄せ合い、セシリアの死に複雑な感情を覚える魔物たち。皆、その瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうな勢い。


だが、そこに。


「なッ、涙を見せるべきは今じゃない!! 流すべきは嬉し涙!! この世界を救ってからだ!!」


自らも涙を堪え、魔物たちの頭上で声を響かせるフェアリー。

そのフェアリーの声。

それに、魔物たちは皆、涙を拭っていく。


「そ、そうだ。フェアリーの言う通りだ」


「お、俺たちがやらなきゃ」


誰がこの世界を導くんだ。


そう響かんとした、声。

それを引き継ぐのは魔王の声。


「世界を救う、か。その台詞。魔物オマエたちが言っても良い言葉ではないな」


しかしその声音は柔らかい。

そして、魔王はガレアへと問いかけた。


「ガレア。我が娘よ」


「はい」


「此度の闇として。光である勇者を支える覚悟。それはできておるのか?」


その問い。

それにガレアは答えた。

身を預けたアレンの顔。

それを見つめ、瞼を閉じ答える。


「できております。此度の闇として、そして。これまでの闇の思い。それを引き継ぎ、光と共に世界の理に抗う覚悟。それもーー」


ちいさく息を吐き、瞼を開け、ガレアは言い切った。


「我はできております」


そのガレアの言葉。

アレンはそれを受け止め、自らも言葉を紡ぐ。


「きっかけは、復讐。あの宿屋での出来事。それがはじまり」


聖女マリア

そして、ゴウメイ。

その二人の会話から、全てがはじまった。

復讐に身を委ね、勇者であることを放棄しても良いとさえアレンは思った。


「命をかけて守ろうとした人。俺が、幸せにしてあげたいと思った人。みんな、笑顔になって欲しいと思いました。セシリアさんのように、誰もが憧れる勇者になりたい。そう、思っていました。でも、それも。負の感情に飲まれ」


静かに、魔王は聞く。

響くアレンの言葉を。

その魔王に倣うように、周囲の面々もアレンの声に耳を傾ける。アレンの思い。それを聞き届けようという意思と共に。


"「アレン」"


"「アレンくんっ」"


ソフィとセシリア。

その二人の笑顔。

それを浮かべ、拳を握るアレン。

それは自らの弱い心を見せまいとするアレンの仕草そのもの。


「だけど、今は」


"「ディシアッ、ディ、しあ」"


"「ありが、とう」"


わたし。

あなたに、出会えて、ほんとうによかった。


消えゆく、少女。

その側で慟哭し蹲った一人の男の姿。

そんな光と闇の定めに抗えなかった、バロールディシア


その記憶に触れーー


世界みんなを救う勇者になりたい。ガレアと共に、世界を救うアレンになりたい」


アレンは声を響かせる。

はっきりと。一切の躊躇いもなく。

呼応し、微かな真紅のオーラがアレンに寄り添う。

アレンの決意。それを優しく包み込むようにして。


そして、魔物たちは応える。


「そッ、そうだ!! それでこそ勇者様だ!!」


「我らはどこまでもアレン様ッ、そしてガレア様についていきますぞ!!」


「きゅっ!!」


「ワオーン!!」


勢いを取り戻し、瞳に輝きを取り戻していく面々。

そして、セシリアの仲間たちもまた、反応を示していく。


"「わたしはセシリアッ、これから世界を救うんだ!! よろしくね!!」"


「……っ」


はじめて出会った頃のセシリアの面影。

それをアレンに重ね、口元を抑え瞳を潤ませるスズメ。


「ったく。アレンの奴、中々いい面してやがんな」


「うむ。やはり、セシリア様の見込んだ通りのお方じゃ」


アレンの姿。

そこに勇者を感じ、ゼウスとブライはスズメの側に寄り添う。

そして、声を響かせた。


「セシリアも。喜んで、いるだろうな」


「え、えぇ」


「セシリア。やっぱ、てめぇはすげぇ奴だ。アレンの素質。それを見抜いーー」


瞬間。


〜〜〜


"「みんなはわたしの大切な仲間。スズメ、ゼウス、ブライ。大好きっ、愛してる」"


頬を赤らめ笑う、セシリア。


〜〜〜


蘇る、在りし日の光景。


ゼウスの頬。

そこをつたう、涙。


「セシ、リア」


「ゼウス殿」


ゼウスの名を呼ぶ、ブライ。

その瞳もまた、潤んでいる。


「泣いていたら、セシリア様に笑われますぞ」


そう言い、ブライは空を見つめた。

こぼれ落ちそうになる、涙。

それを必死に堪える為に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ