VSバロール①
それと同時に、そのモノはカタチを為す。
天にも届かんとする巨躯。
そして、世界の全てを視界に収めんとする瞳。
漆黒の肌に覆われ、邪悪なオーラに身を包むその姿はまさしく黒き巨人そのもの。
言葉を失い、その場に立ち尽くす魔物たち。
中には汗を滲ませ、へたり込む者も居た。
だが、その中にあってアレンの真紅と漆黒は揺らがない。
こちらを敵意をもって見下ろす、バロール。
その眼差しに、アレンは声を響かせた。
「勇者の加護」
アレンの周囲。
そこに展開される、真紅と漆黒を帯びた武器。
曰くそれは、セシリアと己の加護が付与された【万物を滅する】武器。
その中の一本。
それを握り、アレンは言い放つ。
「来い、バロール」
「ーーッ」
大気を震わせる、咆哮。
それと共に、バロールはアレンを見た。
【破壊の魔眼】
巨大な瞳。そしてその視線。
それが紫の光を放ち、アレンへと降り注ぐ。
それはアレンのみを対象とした、バロールの破壊の意思。
しかし、アレンには通じない。
「遮断の加護」
呟かれる、アレンの言葉。
そしてそれに倣い、ふわりとアレンの身を包む、温かな加護の抱擁。
そこに、アレンはセシリアを感じた。
"「がんばれっ、アレンくん!! ほらッ、ソフィちゃんもアレンくんにがんばれって言ってあげて!!」"
"「がんばれっ、アレン!!」"
豆だらけになった手のひら。
そこに木刀を握り、幼きアレンは歯を食いしばってセシリアへと向かっていった。
強くなりたい。
その一心で。
「我が名はバロール」
「かつて勇将と呼ばれ、世界に求められしモノ」
溢れ落ちる、バロールの声。
こちらを見据える、アレン。
その勇者の眼差しに、バロールは吠えた。
「ーーッ」
その咆哮。
それはどこか悲しげで、どこか哀愁に満ちている。
静かに。
アレンは、剣を振るう。
そしてそのアレンの側に、魔王もまた現れる。
影のように。闇を纏って。
「人間」
「はい」
「一振りで。あのモノを」
アレンの握った、剣。
そこに指を這わせ、魔王は刃へと厄災を与えた。
【死の厄災】
その本来なら加護と相いれぬ力。
それが、混じり合う。
まるで、セシリアの意思がソレを許したかのように加護と厄災は互いに共鳴する。
「はい。一太刀の元に」
剣の刃先。
それをバロールに固定し、アレンの加護は更にその勢いを増す。
その間際。
アレンは見た。
"「バロール。わたしは貴方を忘れない。たとえ世界が貴方を忘れても。わたしは絶対に貴方を」"
"「勇者と魔王。そんなーーが現れても。貴方は、ココに居た。この世界に貴方は。貴方は」"
心眼の加護。
それを通じ、アレンは微かにバロールの心を見た。
霞がかかり、澱んだバロールの心。
その中に、靄に包まれ涙を流す少女の姿を見た。
だが、アレンはソレに動じない。
「人間」
「……」
「この世界は常に、光と影がある。今は勇者と魔王という名の光と影。しかし、その前は」
「勇将と魔眼。かつてのこの世界はそんな光と影があった。だけど、それは」
「誰一人として覚えておらぬ」
"「俺はバロール!! この世界を魔眼の闇から救う者!!」"
バロールの心。
そこより響く、霞がかったモノの明るい声。
それに唇を噛み締め、アレンは心眼の加護を解く。
それに、呼応しーー
真紅と漆黒。そして、厄災。
その力がアレンの剣を輝かせ、周囲を包む。
「ーーッ」
咆哮する、バロール。
そしてその太く巨大な足を振り上げ、バロールはそれをアレンへと振り下ろさんとした。
しかし、ソレは叶わない。
「勇者の加護。そして、魔王の厄災がひとつ」
声を紡ぎ、アレンは剣を振るう。
刹那。
真紅と漆黒。そして、厄災に彩られた光の帯。
それが巨大な閃光となり、バロールの身全てを一切の隙間もなく包み込んだのであった。




