リリス①
〜〜〜
「王よッ、魔王城近くに位置する村!! そこが陥落したと偵察兵より報告がありました!!」
「それがどうした? 村のひとつやふたつ。魔物に取り返されたぐらいで騒ぐでない」
大浴場。
そこで、王は妾たちの肩を抱きながら声を響かせる。
湯の中。
そこで気持ちよさそうな表情をたたえながら。
立ち昇る、湯気。
その中で、側近である男は更に声を発した。
「しッ、しかし!! 今まで勢いを無くしていた魔物たち。そのモノたちが行動を開始したとなると--ッ」
「ええいッ、うるさい!! こちらには勇者一行がついているのだ!! その力があれば村のひとつやふたつ。いつでも奪還できるであろう!!」
水飛沫。
それを手で飛ばし、フラツカイザは側近に怒鳴りつける。
「で、ですが」
なおもひこうとしない、側近。
その無礼者。
その者に対し、フラツカイザはトドメとばかりに吐き捨てた。
「さっさと我の前から立ち去れッ、さもなければ」
眼光を鋭くする、フラツカイザ。
その眼光。
それに側近は、「もッ、申し訳ございません!!」と頭を下げ浴場を後にする。
それを見送り、フラツカイザは呟く。
「ふんっ。この程度のことで騒ぎよって」
己の胸中。
そこでちいさく笑いながら。
だが、それは大きな誤り。
それを理解した時には全て手遅れということ。
フラツカイザはそれを全く理解していなかった。
〜〜〜
「み、みんな死ぬんだ。ま、魔法が使えず……そそそ。装備も装備できないなんて」
村外れの廃れた小屋。
その中。
そこで魔法使い--リリスは一人、自暴自棄になっていた。
「終末ッ、終末が来たんだ!! あはッ、あははは!!もう少しで魔王を倒すことができたのに!! もう少しでッ、もう少しで!!」
床に転がる伝説の杖。
それは、勇者の加護--"装備"が解除されたので持つことさえできない。
頭をかかえ、目を血走らせ--
「い、今のわたしはスライムにさえ勝てない。くそっ、くそっ、くそ!!」
叫び、その場に蹲るリリス。
こ、こんなことになるのなら。
"「勇者はクソ!!」"
"「だなよな。わかるぜ」"
"「わかってくれるの?」"
"「あぁ、俺の宿屋にこいよ。退屈させねぇからよ」
"「うん、いいよ。リリスは退屈が嫌いだもん」"
なんてことしなければよかった。
「どうせ死ぬんだもん。あは、あははは。そうよッ、どうせわたしは死ぬんだ!!」
目。
そこから光を無くし、ふらりと立ち上がるリリス。
だが、そこで。
「そ、そういえばガルーダの帰り遅いわね。ご、ゴウメイもマリアも来るって言っていたのに」
リリスは思い出す。
勇者が寝た後。
ここで愚痴パーティーに興じる為、待つように言われてたんだっけ?
目に光を戻す、リリス。
だがその瞬間。
「ガレア様。この中から人間の匂いがします」
そんな声が響き--
数秒後。
ドゴォン!!
ガレアによる、風魔法。
それと共に小屋が吹き飛ばされ、リリスは外気に晒されてしまった。
「は? えっ?」
混乱する、リリス。
だがアレンの姿を見定めるや否や、助けを求める。
「あッ、アレン!! よ、よかったぁ。わたしを助けてよ!!」
的外れの言葉。
リリスはそれを響かせた。
「びっくりしたんだよ、わたし。いきなり魔法も装備もできなくなっちゃってさぁ」
しかし、そのリリスへとかかるアレンの解除。
「勇者の加護がひとつ。賢さの加護を解除」
途端。
リリスの賢さ。
それが0になってしまう。
勇者の加護。
その効果。それは多岐にのぼる。
個人に対するモノ。
そして、世界中に対するモノ。
個人に対するモノ。
それはガルーダにかけられた筋力の加護がその最たる例。
世界に対する加護。
それは勇者の意思により、その範囲を指定することができる。
一応、設定を載せておきますね