魔眼①
そのアレンの姿。
それを、存在は見定める。
「託されたか」
呟かれる、言葉。
「セシリア。かつて、世界を救った者が落ちぶれたモノだ。自らの力。それを他者に託し、自らは死を選ぶとは」
迫る、アレンの姿。
真紅と漆黒を纏う、加護に魅入られし者。
それに、そのモノは嗤う。
響く、嗤い声。
どこか今の状況を楽しむかのような、そんな嗤い。
「しかし、手間が省けた。この俺にはまだ、そんな運が残っていようとはな。セシリア。セシリア。あの者の相手をしなくとも良いという運。それが」
己の眼前。
そこに現れ、剣を振るわんとしたアレン。
それを見据え、バロールは「石化」と囁く。
だが、アレンには通じない。
ただその瞳に敵意を宿し、ただその頬にセシリアの温かさを思い出し、アレンはバロールに剣を振るう。
セシリアの面影。
それを、思い出しながら、
〜〜〜
「アレンくんっ。それに、ソフィちゃん」
胡座をかいた、セシリア。
その両脇に座し、アレンとソフィは頬を紅潮させていた。
高鳴る鼓動。憧れの勇者に名を呼ばれ、二人は幼き胸を高鳴らせていた。
澄んだ青空。
それを三人は揃って見つめーー
「この世界は勇者の加護に包まれているんだよ」
「そ、そうなの?」
「すごい」
「人々が生活し、魔法を使える。それも全部、ぜーんぶ。加護の力なんだ」
「へ、へぇ。ゆうしゃさまってすごいんだね」
「すごい。すごい」
「でね、二人はどう思うかなって。怖いと思わない? たった一人の人間に。世界の全てを握られてるのって、恐ろしいと思わない?」
二人を両手で抱き寄せ、セシリアは問いかけた。
どこまでも優しく、柔らかな声音をもって。
「すごいと思う」
「かっこいいと思う」
「あはははっ。そっか。でも、わたしはーー」
〜〜〜
「いつかそんな世界を変えたいんだ」
空を切った、剣。
それに呼吸を乱し、アレンはセシリアの思いに瞳を潤ませる。
「セシリアさん、セシリアさん」
"「アレンくんっ。ソフィちゃんっ。お姉さん。また会いにきちゃったぞ」"
"「へぇ、アレンくん。剣の稽古をはじめたんだ。いいぞ。かっこいいなっ、アレンくん。ソフィちゃんが傷の手当てを? えらいぞっ、ソフィちゃん」"
「はぁ…はぁ…」
滴り落ちる、涙。
それを拭うこともせず、アレンは三度、バロールへと駆け出す。
光景の影。
それに同化し移動して、アレンの矛先に捉えられぬバロール。
それはまるで、広がる影全てが己と一体と言わんばかりのバロールの意思の現れ。
「泣いているのか?」
「黙れ」
「たった一人の死。その程度で」
「黙れッ」
アレンを嘲笑うかのような、バロールの声。
それにアレンは叫び、立ち止まり目を見開く。
そして。
「俺はこの身がどうなっても構わないッ、俺のせいで!! 俺のせいでセシリアさんがッ!! 馬鹿な俺でもわかる!! 俺の為にッ、セシリアさんは全力で加護を使ってくれた!! そのせいで……ずっとッ、俺のことを!! ソフィのことを考えていてくれたセシリアさんを殺したのはこのーー」
俺だ。
そう響かんとした、アレンの声。
だが、それを遮ったのは。
「アレン!!」
そうやって響いた、ガレアのアレンの名を呼ぶ声。
そしてその声もまた震え、声を発したガレアの瞳もまたアレンと同じように潤んでいた。




