セシリア④
「ありがとーみんな」
仲間たちに手を振り、労をねぎらうセシリア。
そのセシリアに、仲間たちはいつものように振る舞った。
「セシリアさん。アレンさんにお力を見せようとし、張り切りすぎです。ご自身のお歳。それをお考えになってくださいまし」
「その通り。いくら元勇者だからといって、加減なき加護は身体に響く。筋肉痛で済んでよかったと思うべきですぞ」
「そうだぞ、セシリア。あの程度の相手。今の力の半分くらいで充分だろ」
口々にセシリアを嗜める、スズメ。ブライ。ゼウス。
しかし、皆その表情は柔らかい。
「だってー。わたしはアレンくん憧れの的だもん」
仲間たちの言葉。
それに楽しそうに声を返し、セシリアはアレンへと歩み寄っていく。
そして、佇むアレンの眼前で足を止めーー
「元勇者の加護」
そう呟き、微笑みながらアレンへと手のひらをかざし加護を付与するセシリア。
刹那。
眩い真紅の光。
それがアレンを包み、アレンは感じた。
温かい加護。かつて世界を救った者。その負の感情に染まらなかった、勇者の加護をその身に。
「感じた? 温かいでしょ? アレンくん」
自分の加護とは明らかに違う。
冷たくなった心に仄かな焔を灯すかのような、加護。
これが、本物の加護。
これが、本当の勇者の加護。
これが、世界を救った者の加護。
俯き、アレンはその加護を受け入れようとした。
"「俺は世界を救う。勇者として、この世界を救ってみせる」"
かつて抱いたその思い。
それを反芻し、セシリアの加護を受け入れようとーー
だが、そこに。
「赦すな」
アレンの口。
そこから無意識に漏れる、言葉。
「この世界を赦すな。ソフィを奪った、この世界を。故郷を滅ぼしたこの世界を。王を討ったカラと言って、俺の心の隙間は埋まらない」
呼応し、アレンの瞳に闇が宿る。
同時に、アレンを包む漆黒の加護。
それは、セシリアの加護を打ち消しアレンの身を漆黒へと染め上げていく。
「アレンくん。貴方」
小声を響かせ、微笑みを消し、アレンを真紅の双眸で見据えたセシリア。
そして二歩、三歩と後ろに下がり、セシリアは再び己の加護を自らへと付与する。
「お姉さん、信じていたのに」
「……」
「アレンくんはきっと。またやり直せるって」
「やり直す? それで、ソフィは故郷は戻ってくるのか? 復讐をやめて。なにが残る」
明らかに、アレンのモノとは違う声。
「セシリアさん。教えて……くれ。俺は、俺は」
流れ落ちる闇色の涙。
そしてそれは、アレンの足元を漆黒で塗り潰し闇の溜まりを形成していく。
その光景。
それに、セシリアの仲間たちは息を飲む。
しかし、セシリアだけは冷静に声を響かせた。
「復讐の加護。アレンくんは、自らにソレを付与している」
と。




