セシリア③
「貴女。強いのね。邪魔者はアレンだけだと思っていたのに」
呟き、少女は己に向けられた聖剣の刃先を握りしめる。
見開かれた、少女の目。
そこにあるのは、雷光。まるで瞳の中に雷を宿しているかのようなそんな瞬き。
「貴女、とっても速いのね。こんなに速い人間。わたしはじめて見ました」
「そう? それって褒めてくれてるの?」
瞳孔。
それを開き、少女を見下ろすセシリア。
「貴女。雷の加護よね? 知ってる。だって、私。前に貴女と同じような相手を瞬殺しちゃったから」
かつて、セシリアは討伐した。
一太刀の元に雷を宿した雷獣を。とある村を救う為。一切の情け容赦もなく、加護を付与した剣を握って。
「だから、貴女もすぐに葬ってやろうと思ったんだ。だけど、うん。獣じゃなくて人の……しかも少女の姿の貴女に、ちょっとだけ手元が狂っちゃった」
淡々と響く、セシリアの声。
そこにあるのは、敵に対する者の混じり気のない殺気のみ。
しかし、少女の笑みは崩れない。
セシリアの聖剣。
その刃先を握ったまま、少女は言葉を続ける。
「そっか。貴女だったのね」
「あの頃のわたしを殺したのは」
刹那。
セシリアの身に迸る、少女の力。
それは、雷の加護の力の賜物。
曰く、それは対象の身に耐えられない雷を流すというもの。聖剣を伝い、セシリアに流れ込む電流。
それに呼応し、セシリアの周囲に途方もない火花が散り、閃光が走る。
加えて、少女は口を開く。
「わたしは一にして全て。この身は、人間みたいに矮小な存在じゃない」
「へー……言ってくれるね」
己の身を包む、雷。
セシリアはそれに表情を変えず、淡々と声を発する。
耐性の加護。それを自身に付与した状態で。
「その言い方だと。自分が人間より上の次元だって言いたいの?」
セシリアの無機質な問いかけ。
それにしかし、少女は答えない。
ただその表情をセシリアと同じく無機質にし、短く呟いた。
「私だけじゃない。みんな。上の次元」
その呟き。
それを聞き返すことを、セシリアはしない。
代わりに、空いた逆手に意識を集中しーー
「創造の加護」
意思を表明しその手に雷獣をほふった剣を握る、セシリア。
そして、「さよなら」そう吐き捨て、セシリアは少女の首に躊躇いなく剣を突き立てる。
瞬間。
少女の身。
それが霧散し、染み渡る声。
「もう少しだけ。貴女と遊んであげる」
セシリアの遮断の加護。
その内に、現れる。
「グルルル」
白光に彩られた無数の獣たち。
それは、少女の雷の残滓が意思に倣い雷獣に姿を変えたものだった。
実体なき獣。否、それは雷が実体をもったもの。
「だろうね。そんな予感はしてました」
少女に剣は突き立てた。
しかし、セシリアは抱くことはなかった。
少女の命を砕いた感覚。それを、一切。
「さて、と。そろそろお姉さん、筋肉痛が増してきました。久しぶりに加減なく加護を使ったツケが回ってきましたよっと」
目の前の状況。
それにそぐわない、セシリアの笑顔。
そして振り返り、セシリアはアレンに声をかけた。
「アレンくん。お姉さんの代わりに戦ってくれない?」
「はい」
セシリアの問いかけ。
アレンは力強くその声に頷き、足を踏み出す。
そのアレンにますます笑顔になり、言葉を続けるセシリア。
「うーん。やっぱり、いい子。じゃあ、いくよ。自分の身をもって、わたしの加護を感じてみて。アレンくんなら、きっと。ううん、絶対にきっかけを掴めると思う」
微笑む、セシリア。
そのセシリアの声と表情。
それに、仲間たちは悟る。
「セシリアさん。自らのご加護をアレンさんにかけるおつもりですね」
「ふむ。本当の加護の使い方を教えようというのですな」
「セシリアなりに。色々、考えていたってことか」
アレンを手招きする、セシリア。
その姿を見つめ、仲間たちは頷き合う。
だが、それを雷獣たちは許さない。
「ーーッ」
一切に跳躍し、こちらに背を向けたセシリアに飛び掛からんとする雷獣の群れ。
だが、それを彼等は遮る。
「邪魔はさせませぬぞ」
眼光鋭くし、時間停止魔法をもって雷獣たちを空中で静止させるブライ。
「よっと」
軽く前に突き出した拳。
その風圧をもって、ゼウスは静止した雷獣たちを後方へと飛ばす。
そして、更に。
「心置きなくご加護の付与を。お助けいたしますわ、セシリアさん」
上品に声を響かせ、スズメはセシリアの身体の痛みを消失させたのであった。




