セシリア②
「うん。相変わらずアレンくんはとてもいい子。お姉さん。そんなアレンくんが大好きだぞ」
加護を抑え、アレンは自分の言葉を受け入れてくれた。
それに、セシリアはとても嬉しくなる。
そしてそれに呼応し、セシリアは呟く。
意思の宿った、かつての勇者としての思い。
それをその瞳に宿し、呟いた。
「在りし日の勇者の加護」
刹那。
アレンは見た。
揺らめく赤髪。
はためくは、セシリアの羽織った漆黒のローブ。
セシリアの身。それを主とし、その赤の光はセシリアの意に従い赤々とセシリアを包んでいく。
自分の加護。
ソレとは違う、見る者に途方もない羨望と憧れを抱かせるセシリアの加護の輝き。
"「君、勇者の素質があるよ」"
三度、アレンの脳裏に蘇るセシリアの言葉。
そして、アレンは声を漏らした。
「俺もセシリアさんのような」
込み上げる、あの頃の思い。
ソフィと笑い合い、勇者の姿に憧れ、二人して瞳を輝かせ、村の中ではしゃぎあった幼きあの頃。
ただ、純粋に勇者になりたかった。
世界を救い、みんなの幸せを心から願う。
そんな、そんなーー
「勇者になりたかった」
壊れた蛇口のようにそれは滴り落ちる。
アレンの瞳。そこから、幾筋もの涙がとめどなく。
「なれる。アレンくんなら、なれるよ」
声を響かせ、セシリアは前へと向き直る。
そして、明るく言い放った。
「なんていってもッ、このわたしが素質ありって言ったんだから!! 最強無敵のこのお姉さんがッ、そう太鼓判を押したんだから!!」
己の声の余韻。
それと対比し、セシリアの顔から笑みが消えていく。
同時に、膨れあがっていく真紅の光。
「だから、見てて。お姉さんの強さを。ずっとお姉さんはアレンくんの憧れの的であり続けるから」
見開かれる、セシリアの双眸。
そこに瞬くは、真紅。
しかし、その少女は一歩もひかない。
それどころか、一歩前に踏み出し少女は声を発した。
「さっきから言ってる。貴女如きに用はない」
少女を包む、純白の雷光。
セシリアが赤光ならば、己は白光と言わんばかりの少女の表情。
だが、セシリアは意に介さない。
しかと少女を見据え、言葉を紡ぐセシリア。
まるで遥か上から少女を見下ろす絶対者の如き声音。
それをもって、淡々と。
「貴女の目的は不明。だけど、敵であることははっきりしている」
「敵。そう、貴女は敵。わたしたちの理想を邪魔しようとする貴女は敵」
「そっか。なら」
話は終わり。
そんな風に、セシリアは前に一歩踏み出す。
微かに空間が揺れーー
「神速の加護」
短く声が響いたと、少女が認識した瞬間。
少女の四肢。
それが切り離され、「……」壊れた人形のように仰向けに倒れる少女。
そしてその少女の顔に剣の刃先を固定し、セシリアは声を響かせた。
「貴女、この程度で死なないよね。だって私。普通の聖剣で切断しただけだし」
セシリアの言葉通り。
少女は微笑み、四肢を再生させていく。
稲光。それを明滅させ、それこそ最初から何事もなかったかのように。




