魔王が死んだ日
No184574
これが、最終報告になる。
今日、ウレンジーミルが死んだ。
死因は心臓発作だ。
病気の兆候等は見られていなかったが今年で百十七歳だ。
それまで、元気に生きていたのだ。
よくここまでしぶとく生きていたものだ。
あの魔王国の技術も侮れないものだろう。
だが、その国もこうなってしまっては、もう。
そして、やっと地獄が終わったのだ。
もし、誰かが見ていたなら、私達の後悔を聞いてほしい。
ウレンジーミルは誰もが認める、死神、魔王である。
こいつのせいで何十億人という人間が死んだのだ。
最初は返発的な小国を侵略したことから始まった。
その時の有名な発言が
「核ミサイルを使うぞ」
という、世界へ向けた脅迫だった。
メディアはその小国へ向けたものだと言っていたがそうではない。
この言葉は全世界に向けてものであり、近隣の小国はもちろん、他の大国も完全に腰が引けてしまったのだ。
どの国も魔王国に対して批判や間接的な制裁はしたもののそれは殆ど無意味なものだった。
それを決定的にしたのが、魔王国の奴隷制度だった。
名前を敗戦国人労働法といい、侵略の結果国を失った人たちを半ば強制的に労働力にしたのだ。
従わなかった人間は適当な犯罪を理由に死刑にしたのだ。
噂ではその死体は肥料にされたとか。
でも、どの大国もただ静観を決め込むのだった。
本当はここで戦うべきだったのだ。
その後も侵略は続いた。
適当な理由を付けて、これは魔王国民を救済という名の侵略を続けたのだ。
でも、何もしない。
本当に大戦へと。
核戦争になるのを恐れたからだ。
早い話が、どの国も自国での戦争は嫌だったのだ。
時刻に核ミサイルが落とされれば人的にも経済的にも大打撃を受けるのは目に見えて明らかだったからだ。
そうして、核を持たない国は瞬く間に侵略され、魔王国は北の国を全て統治したのだった。
侵略された人たちは全員が奴隷となり、労働力、そして慰めものになったのだ。
その脅威をやっと認識した大国は達は重い腰を上げやっと戦争を始める。
だが、遅すぎたのだ。
あまりにも強くなり過ぎたのだ。
まずは兵について。
奴隷にいつでも毒を首輪をつけ、家族を人質に取ったのだ。
逆らっては死、更に家族も死ぬ。
だが、戦争で戦えば自分だけが死ぬ。
家族の命は守られる。
あわよくば、生きて家族のもとに変えられる。
そう考えた死を恐れぬ兵隊たちが何百万人と魔王国にいた為だ。
兵器の開発も大国であったために、かなり進んでいた。
それに、兵器が無くなれば奴隷を使って増やせばいい。
そうやって、戦争は奴隷を非人道的に使いつぶしていった魔王国に軍配が上がったのだった。
元々平和が続いた世界では敗残兵でも人道的に扱うのが常識だった。
そんな常識を捨て、魔王国の人間を同じように労働力にしていれば、こんなことにならなかったのだろうか?
でも、そうなっていては私たちも魔王国の人間と一緒になっていたか。
最初こそは魔王国の人間も非人道的な侵略を非難する者たちもいたが、そんな者たちはほとんどいなくなっていた。
人間はどこまで行っても利益主義なのだ。
楽しい方、楽な方に進んでいくもの。
奴隷というおもちゃを与えられた国民たちは魔王の支持を厚くし、それに比例して魔王の地位は盤石なものになっていったのだった。
そうしているうちに、西の国々は全て統治されてしまったのだった。
ここで、他の国、特に東の国についてあげよう。
私の祖父母が生きていた東の島国は魔王国とは別の帝国に侵略を受けたのだ。
元々、帝国と魔王国は繋がっていて、戦争が激化する前にお互い魔王国は東を、帝国は西を侵略しない取り決めがされていたのだ。
そうして、次々に帝国も東南へと侵略を続け小さな島国だった祖父母の国はたった二ヶ月という期間に飲み込まれてしまった。
祖父母は
「帝国に侵略されるくらいなら、第二次世界大戦で負けた時に西の大国に併合されればよかった」
「元々敗戦国である帝国を、野放しにするべきではなかった」
と、言っていた。
だが、父母は
「魔王国に侵略されるよりは、まだ帝国の方でよかった」
と、言っていた。
帝国は敵には非情だが、媚びへつらい、頭を下げる相手には興味を示さなかったのだ。
もちろん、馬鹿にされることも、敗戦してすぐは非人道的な事件も、慰めものにされたこともあったが、血が混じるにつれそんなことも無くなり。
生活レベルは元々の帝国民と比べると低いが、奴隷よりはまだよかったのだ。
話は逸れてしまったが、ここまで来ると、最後に西の大国を魔王国と帝国がどちらが先に侵略するかという戦いになった。
もう、西の大国もこのころには戦う力も失い、侵略の手に怯える状況になったのだ。
海を隔てて、西も東も軍艦が自国に近づいてきているのだ。
元はプライドが高く、どの国にも負けない自負があったそうだが、もうそんな姿は見る影もなかった。
そして、東西に分けるように西の大国は侵略され世界からその国は無くなったのだ。
その後、しばらくは平穏な日々が続いた。
その間に私は産まれたのだった。
帝国は私が成人を迎えるまでに幾度も内乱があったが、魔王国には無かった。
それを、教師からは魔王国は魔王国民か奴隷しかいないからだと言っていた。
その言葉の意味を理解するのはそれよりだいぶ後。
私が帝国から魔王国へのスパイとなった後のことだった。
私にはあまりよく分からないのだが、白人にも色々と違いがあるのだそうだ。
そして、その違いから魔王国民か、どこの奴隷かが見分けがつくらしい。
そうして、奴隷たちは男は兵として、女は新たな奴隷を産み娯楽を与える道具になっていた。
その目は生気を失い、反乱を起こせるような状況ではなかった。
この時、両親の言葉の意味がよく分かった。
一見すると平和な世が二十年ほど続いた。
そんな時に帝国の年に核ミサイルが落とされたのだった。
だが、過去の栄光を最後にと、魔王の身勝手な欲望からの攻撃だった。
もちろん、帝国も黙っていなく、毒や生物兵器を使い始めたのだった。
魔王国が戦争を始める前からこのことを見越して、白人によく聞く生物兵器を作っていたらしい。
そうして、戦ってきた。
何十年も。
この間の詳しいことは前に書いたの報告書を参照して欲しい。
先日、帝国は魔王国に負けたのだ。
だが、魔王国も生物兵器で何億人もしに、核の攻撃で住める土地もほとんど失った。
そんな中、魔王は逃げるように死んだのだ。
楽しかっただろう。
やりたいように、土地取りゲームをしていたのだから。
ああ、早く魔王を殺しておけば。
この不毛になり、原子汚染された世界で人々は後どれだけ生きていけるのだろうか?
どうか、この最後の報告書が未来の誰かに届くように。
新たな地獄を前に、私は最後に残った弾をピストルに込め、引き金を引くのだった。