思い出のカセットテープ
――とある日の会議室。
昼休みを利用して集められた総勢十数名が、何事かといった感じで部屋に入っている。会議室の広さは長机が三つほど並べられるくらい。
うちの会社は新人とベテランが多く、所謂中間層がいない。20代の若者と、バブル世代と呼ばれる50代で成り立っている会社だ。そんな中、私だけが微妙な立ち位置にいる。
「おー、揃ってるな! 感心感心」
上の人間が入って来た。上司の背中には、何やら重たそうな風呂敷包みが見えている。
"上の人間"は50代。集められた20代は顔を見合わせて、不安そうな表情を見せている。昼を削られてさせられることは、大体どうでもいいことと決まっているからだ。
重みのある風呂敷包みをおもむろに長机の上に乗せ、結びを解く上司。
すると無造作に入れられていた相当数の『カセットテープ』が、長机の上を占領し始めた。その場にいる20代の彼らは戸惑いつつも、それが何なのか戸惑うばかり。
「……カセットテープですか。それをどうするおつもりです?」
「おっ。さすがに君はこれが分かるか!」
「まぁ、年代的にギリギリですから」
他の彼らは手に取ることもせずに呆然としている。20代にとって興味のわかない『カセットテープ』など、骨董品のようなものに違いない。
上司の指示はカセットテープのラベルに貼られた曲名や歌手名をリスト化すること。ラベルにはそれぞれ手書きで書かれていて、かなりの年代物を思わせる。
周りの彼らは見たことが無いカセットテープに近付きつつ、戸惑い気味だ。
「何です、これ?」
「ええと今でいうと記録メディアかな。録音したり再生したり」
音楽配信、動画配信……それらが当たり前の世界にある彼らからすれば疑問だらけ。
「昭和のアイテムってやつですか」
「……今だとダウンロードで出来るけど、好きなアーティストとかを自分で編集して自分好みに出来たものだよ。個人的な思い出を保存しておけるって感じで」
「思い出ですか」
「例えばカセットテープに好きです! なんて入れて告白するとか、使い方は色々……」
「告白! いやー無理ですね、それ」
言われてみれば何だか急に思い出して来た。今じゃ考えられない"告白"を『カセットテープ』でしていたとか、思い出だけに留めておこう――
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