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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『ヒトブタ』

作者: ぎぎ

「この動画を見ているあなたに問う。ヒトとは?」


 たくさんの動画サイトを見てまわるうちに見付けたひとつの動画。なんでも世界でトップを駆け抜けた外科医の最後の動画であるらしい。

 彼女は動画のはじまりから両手の指を組み、まるで祈り、いっそ神に赦しを請うような宗教者のようだった。白衣もあいまって、顔色は悪いなんて言うレベルではない。

 死者と変わらないのではないか……。


「私は医者の家系に生まれ、私も医者になることに何の疑問も抱かず外科医になった」


 淡々と語られる身の上。医者になれる素養と金銭に困らない恵まれた家庭。白衣を身に纏い患者を癒すために患者のためにメスをふるう毎日であったと語る。


「そのうちに愛する人に出会った」


 このあとしばらく、ノロケノロケノロケが続く動画。正直、見ているだけて口から蜂蜜が溢れそうなくらいの甘々生活を語られる……。


 いざ相思相愛で結婚し、出産。我が子を産むだけの、簡単な話、であったはず。


 なにが……。


 なにがどこで、壊れたんだろう……。


 初期の検査結果、彼女の子は『先天性多臓器不全』と診断された。臓器移植なく生きてはいけないと。


 彼女は世界に誇る外科医であった。臓器移植が専門で年に100では、きかない数の移植手術をこなしている。


 かわいい我が子のため彼女は、すべてを売り払った。とにかく臓器移植をしなければ、早ければ明日にも! わが娘は、二日と持たず死んでしまう! そんな思いと共に。


 求めるは最新。再生医療。万能細胞による全ての治療。

 人体と豚。臓器の近似値が取れる関係。豚の臓器とヒトの臓器はサイズ的には何も問題はない。豚の胎内でヒトの臓器を育てて、臓器移植に使う。ずっと研究されてきた医療の最先端。

 免疫反応に関しても、特に異常はなかった。


 ありとあらゆる臓器に異常があった子、ほぼ全て……臓器だけでなく、骨や筋肉なども移植手術を行った。

 全て、成功した。


「全ての不全が、癒された……そのはずだった」


 ひどく焦燥にかられた声で語る、むしろ涙をこらえるようなすすり泣きに近い声で……。


「豚の臓器と全部入れ換えた娘は! 豚か? ヒトか? それともヒトブタかっ!?」


 全部、全部が壊れてゆく。


「二歳を過ぎても、発する言葉は『ブヒィ』だと! ありえないありえないありえないああああぁ!」


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] サブイボ全開!! 医療パラドックス!! ちょっと違うけど、学生の頃 人間から遡ったら、何処から猿と呼べるのか 猿から進化を辿ると、いつから人間と呼ぶのか 髪の毛を一本ずつ抜くと何処から…
[良い点] 「外科医の最後の動画」、かわいい我が子のために外科医を辞めて自分は子の母として生きます、かなぁと思いました。愛する人とのノロケ×3の話が出来て、子が既に二歳到達なので、家族仲は良さそうに思…
[良い点] 全ての臓器を豚の胎内で培養した物に置き換えたら、その人は人間と言えるのか。 ホモ・サピエンスとしてのアイデンティティや、同一性の問題をテーマに盛り込まれた、考えさせられる深い御話ですね。 …
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