10,+1機。
「やぁイコ君、おかえりー。月面にウサギはいたのかなぁ?」
自分の計画が崩れたのに、少しも慌てないのが楓さん。
僕は楓さんの肩に左手を置き、右手の星条旗を渡す。
「はい、お土産です」
「わざわざ悪いねぇ」
瞬間、楓さんが自分の影に落ちた。
すなわち、《影門》に。
僕も楓さんと一緒に、《影門》を通過する。
この《影門》とは、早苗さんの新スキル。
事前に《影杭》を打ち込んだ場所へと、標的を空間転移させられる。
ただこの《影門》を発動するためには、標的の影の中に入る必要がある。だから、早苗さんが楓さんの影へ入り込めるかがカギだった。
つまり楓さんが《配達》を用意していたように、僕は《影門》を仕込んでおいたのです。
そして事前に《影杭》を打ち込んでおいたのは、〈秘密の部屋〉の中。
僕と楓さんは絡み合うようにして、〈秘密の部屋〉に落ちる。
ちなみに早苗さんは、校庭に残った。ここからは僕と楓さんだけだ。
あとアイテム創造のおじいさんがいたっけ。
作業中だったおじいさんは顔をあげて、
「おう坊主。まさか〈竜の炬燵〉の返品じゃないだろうな?」
「あれは最高の炬燵でしたよ。月面に置いてきちゃいましたけど。ところでおじいさん、〈秘密の部屋〉から少し出てくれませんか? 1秒もかかりませんから」
おじいさんは肩をすくめて、扉から出ていった。その扉は、おじいさんが出るとすぐに消える。
楓さんは興味深そうに周囲を見回していた。
「実に変な場所だねぇ、ここは。果てがない空間だ」
「〈秘密の部屋〉ですよ、お姉さん。ご存じなかったですか?」
「佐伯家は【無限ダンジョン】の担当じゃないからね。で、どこから出るのかなぁ?」
「出ようと念じてください。扉が出現しますよ」
楓さんは試してみたようだけど、扉は現れなかった。
「出てこないけど、イコ君」
やっぱり。
〈秘密の部屋〉は【無限ダンジョン】でも特別な場所だ。よって、最上級国民が入り込めないよう設定してあると思った。
つまり、出入りの『扉』を出現させられるのはモンスターだけ。楓さんは自力で外には出られない。
楓さんは鼻歌を歌いながら、星条旗を地面に差した。
「イコくん。この〈秘密の部屋〉とやらに、ボクを閉じ込めようってわけかな?」
そんな退屈なことはしませんよ。
「僕の《殺しようがない》も、お姉さんの《残機無限》もよくできていますよね。
たとえば──肉体が復活するたび、MPも全快する。だから雲林院御影さんのように、MP切れで足元をすくわれる心配もないわけです」
さらにいえば、水や食事も復活している分には必要がない。
「また、僕はあることに気づきました。《殺しようがない》で完全再生するさい、肉体年齢も微調整できると。
別に若返ったり、年老いたりできるわけじゃありませんよ。ただ肉体年齢は維持できる。
つまり、10年間にわたって完全再生し続けていたら、僕は16歳の肉体年齢のままです。お姉さんの《残機無限》も同じでは?」
「まぁね」
さて。ここからが本題。
「お姉さん、気を悪くしないで欲しいんですけど。《無限残機》と言いながらも、実は『無限』ではないのでは? 本当は『天文学的な有限』なのでは?」
根拠は単純。
《残機無限》が、《殺しようがない》と対等のはずがない。
そして《残機無限》が《殺しようがない》より劣るならば、復活の回数に限界があるはずだ。
楓さんは嘲笑った。
「イコ君、イコ君。まさかボクの残機が、9999機くらいしかないって?」
「いえいえ。《残機無限》は、そんなショボいスキルじゃないですよ。おそらく、通常なら『無限に等しい数』の残機があるんだと思いますよ。たとえば、9,999,999,999,999,999機とか」
「それはもう無限と同じゃぁないか」
「『無限と同じようなもの』は『無限』ではないですよ。だって僕が、9,999,999,999,999,999機+1機、お姉さんを殺せばいい。そうしたら、佐伯楓は死ぬのです。ね、無限じゃない。有限です」
楓さんは面倒くさそうに言う。
「キミの仮説が正しかったとしてさ、とんでもない年月を要するじゃないか」
「だからこその〈秘密の部屋〉ですよ」
「うん?」
「実はですね、お姉さん。〈秘密の部屋〉は、時の流れの外にあるんです。たとえば〈秘密の部屋〉で100日いても、元の世界に戻ったら1秒も経ってないんですよ。この意味がわかりますか?」
楓さんが目を見開いた。
「ほう」
「ですからお姉さんの残機が無くなるまで、いつまでも殺し合えるわけです」
僕は《地獄神》を召喚して、
「たとえ千年でも、一万年でも」
さすがに、楓さんにドン引きされるかと心配だった。だから誘うことはせず、罠にはめる策を取ったわけだけど。
しかし、そこは佐伯楓です。すごく乗り気な様子で言う。
「すると、キミの《殺しようがない》にこそ復活回数に限界があるならさ。このボクこそが、キミを殺せるというわけだよねぇ」
「まさしく」
楓さんは《神殺し》を召喚して、
「ならボクは、十万年だって殺し合えるよ」
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