7,「親の仇を忘れることはあるかもしれないよ。だけど、盗られたお金の恨みを忘れることはないのです!!」。
昔、聞いたことがある。お金持ちは資産を金塊で所有したがるものだと。
僕のイメージでは、雲林院邸の地下には金庫室がある。それこそ銀行にあるような巨大な金庫室が。
その中には、金塊が山と積まれているのだ。
雲林院家の当主を仕留めたのは僕だし、所有権を主張してもいいよね?
さっそく早退して向かおう。エレベーターで地上を目指していたら、途中で美弥が乗り込んできた。
「あら兄貴、奇遇ね。どこに行くの?」
「雲林院邸に行って、金塊をごっそりと頂戴しようと思って」
「ふーん。けどあたし達、けっこうお金は稼いでいるわよね?」
「新しいダンジョンを作るには、その程度では足りないんだよ。たぶん天文学的な額が必要なんだと思うよ」
「え、兄貴。新しいダンジョンを作る計画を進めていたの? つまり『兄貴の兄貴による兄貴のためのダンジョン』?」
「違うよ、美弥。僕たち『兄妹の兄妹による兄妹のためのダンジョン』だよ」
美弥は感極まった様子で、
「兄貴! 一生、付いていくわ!」
「かわいい妹、美弥!」
兄妹で感動の熱いハグ。
その2時間後。
僕たちは空っぽの金庫室の前にいた。
雲林院邸はもぬけの空で、侵入は容易だったけど。そのかわり地下金庫室にも何もなかった。金塊の欠片もなし。
「ま、そうだよねー。金塊があったとしても、すでに何者かに持ち去られているよね」
「兄貴! なんで昨夜のうちに、金塊強奪を閃かなかったのよ!」
僕の向う脛を蹴とばす美弥。兄妹ハグの余韻が台無しです。
「兄貴って昔からそうよね。ここぞという時に遅いのよ。『もう遅い!』なのよ」
「そうだっけ?」
「そうよ。たとえば──あれは、あたしが小5のときの運動会。兄貴はお弁当を作ると約束したのに、届けてくれたのは昼過ぎだった。空腹のなか、あたしはリレーのアンカーを頑張ったけど、フルパワーは出なかったわ。そのせいでB組の吉川七海に負けたのよ!」
「七海ちゃんか、懐かしい名前だなぁ。彼女、元気にしてるの?」
「知らないわよ。中学が別になってから、七海とは会ってないし」
吉川七海ちゃんは美弥の親友だった(過去形)。たしかお父さんが特高警察の長官だったっけ。
遠くから電話の呼び出し音が聞こえる。
地下から上がって、さらに2階へ。御影さんと対峙した、あの執務室の電話だ。
受話器を取って、
「もしもし、イコライザーです」
[やぁ、イコく~ん]
「楓さん。どうして僕が雲林院邸にいると分かったんです?」
[ボクたち大親友じゃないか。大親友がどこにいるかは分かるものだよ。キミも、いまボクがどこにいるかピンとくるでしよ?]
ははぁ。この人、僕と美弥に見張りを付けているんだね。だけど僕はともかく、美弥も気配を察知できないということは──。その見張りは、よほどの腕利きということだ。
「楓さんが今いるのは、牛丼屋さん?」
[外れだよー。ところでイコくん。キミにはもう一つ、残念なお知らせがあるのさmy friend。雲林院邸の地下金庫室にあった4000億円相当の金塊ね、ボクがいただいておいたから]
「その金塊、僕がいま取りに来たんですけど」
[まぁ4000億円なんてさ、雲林院御影にとっちゃ小銭だったんだろうけどね。アイツの総資産は15兆円くらいだったらしいぜー。
けど佐伯家にとっちゃ大金だよ。ボクのところ、お金を稼ぐのは得意じゃないからね。ありがたく頂戴しておくよー」
「その金塊、僕がいま取りに来たんですけど」
[早いもの勝ちということだよ、イコくん。キミは、ボクとの競争に負けたのだ。諦めなよ]
「その金塊、僕がいま取りに来たんですけど」
[じゃ、またねイコくん。次の【四徳家】を狩るときは、またキミを呼んであげるからね~]
通話が切れた。
僕はゆっくりと受話器を置く。
振り返ると、美弥が何やら怯えた顔をしていた。
「兄貴、怒っているのね? 兄貴が怒るなんて、滅多にないことだわ。まだ人間だったころ、酔っ払い運転に轢かれても『肋骨が折れただけで済んで良かったよー』と笑っていた、あの兄貴が」
僕は拳を突き上げた。
「親の仇を忘れることはあるかもしれないよ。だけど、盗られたお金の恨みを忘れることはないのです!!」
美弥が固唾を飲む。
「それじゃあ、兄貴……」
「次に狩る【四徳家】は、いま決まったよ」
楓さんを討つときが、ついに来たようだ。
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