5,起業家スピリットって大事。
サニ子がまた地団駄を踏んだ。ここだけ切り取ると、駄々をこねている女児にしか見えない。
「オリ子! 【取締役会】に逆らうとは、いい度胸だな!」
「サニ子よ! 今日のわらわは本気じゃぞ!」
オリ子の拳とサニ子の拳がぶつかりあう。
刹那──
最下層全域を巻き込む衝撃波が起こり、僕の肉体は跡形もなく消滅。
さらに衝撃波は天井を吹き飛ばし──その上の階層を巻き込んでの大崩落へと至った。
僕は安全圏で完全再生し、両手でメガホンの形を作る。
「オリ子さーん! やりすぎですよー!」
幼女の拳がぶつかりあっただけで、この大惨事。【無限ダンジョン】を見直したくなるよね。
浮遊球体に乗ったオリ子が飛んできた。
「うむ。ちょっと本気を出してしまったのじゃ」
「【三千世界のラスボス】は伊達じゃないですね。さっきのパンチ、何かのスキルですか?」
「ただのパンチじゃ。サニ子とスキルまで出して戦い始めたら、ダンジョンが半分は消滅してしまうじゃろうからなぁ」
「それにしてもオリ子さん、【取締役会】が僕をクビにしたがるのはどういうわけなんですか?」
「うーむ。どうやら【取締役会】の一部と、ある【四徳家】が密約を交わしているようなのじゃ。実は、わらわがそこを追求しだしたとたん、ダンジョン・マスターを解任させられる羽目になったのじゃな」
「【四徳家】というと──やっぱり佐伯楓さん?」
「どうじゃろうなぁ。佐伯家のやり口ではないような気もするのじゃが……とにかく、わらわはいったん引くとしよう。イコよ、お主は持ち場に戻るのじゃ」
「【取締役会】に解雇された件、まだ解決してないんですが」
するとオリ子は、意外そうな顔をした。
「なんじゃお主、知らんのか? 雇い主は、解雇を30日前に予告しなくてはならんのじゃぞ。これは社会人の常識じゃ。よってお主には今日から30日の猶予があるのじゃ。その間に、わらわがダンジョン・マスターに返り咲けば済む話じゃな」
「はぁ……このダンジョン、社会人の常識が通用するところもあったんですね」
「あとのことは、わらわに任せればよいのじゃ。ひとまず、さらばじゃ!」
そう言い残して、オリ子は空間転移で消えた。
うーむ。オリ子が味方なのは確かだけど、あんまり当てにならないなぁ。この前も知らない間にダンジョン・マスターを追放されていたし。
だいたいサニ子と実力が拮抗している場合、重要なのは他4体の【取締役会】の面々だよね。おそらく4体ともサニ子についているはず。
これだとダンジョン・マスター返り咲きは厳しいのでは?
バイトに明け暮れていた時代、僕はつねに『いまの働き口がなくなったらどうするか?』を考えていたものだ。
ただ【無限ダンジョン】で働き始めてからは、そんな心配はしなくなった。永遠の天職を見つけたと思っていたので。
しかし、そんな【無限ダンジョン】から追い出されてしまうかもしれないわけかぁ。
ここでさらに思考を進めよう。
なぜ、僕はこんな心配をしなくちゃならないのか?
なぜ、解雇される心配をしなくちゃならないのか?
それは雇用されている身だからです!
被雇用者であり続ける以上、雇い主からの『お前、クビね~』のリスクからは逃れられない。
それが嫌なら、自分が社長になるしかないぞ。
だけど【無限ダンジョン】のダンジョン・マスターになるのは無理だよね。【取締役会】さんたちに嫌われているわけだし。そもそも、それで不当解雇されそうなわけだし。
だとしたら──起業するしかない!
つまり、僕だけのダンジョンを持つのだ!
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