8,阿鼻叫喚で行こう。
とんでもない問題に気づいた。
僕たちは、どうやって出ていくべきなのか?
たとえば美弥と一緒に、「どうも~」という感じで出ていったら、兄妹で漫才している人みたいになる。
などと悩んでいたら、美弥が駆けだす。
「あぁ、もう我慢できないわ! 冒険者たちを切り刻まなきゃ、あたしは満足できない体になってしまったっ!」
美弥の奴、モンスターとサイコパスがごっちゃになっているな。
若原和香が首を傾げる。
「なにあれ、人間? モンスター? どうでもいいけど、わたしの嫌いなタイプ」
若原が《火弾連射》発動。
「きゃっ!」
美弥は火弾を《闇黒の爪》で防ぐも、衝撃で吹っ飛ばされる。僕の後ろまで転がっていき、壁に激突して停止。
僕は声をかけた。
「美弥、生きてる?」
「……肋骨が……折れたけど……平気」
やはり美弥には早かったか。《闇黒の爪》とやらのお披露目は、次の機会になりそうだ。
「美弥、そこで休んでな。あとはお兄ちゃんがやるから」
「あたし……も……や……る」
「いいから、いいから。一人獲物を残しておいてあげるから」
「……なら……火弾のクソ女を……兄貴……お願……い」
「いいよ」
僕は、橋場重樹たちの前に出る。
「どうも~。僕がイコライザーです」
橋場重樹が反応する。
「てめぇが、イコライザーとかいうふざけたヤローか。おい、武文の死体はどうした?」
「向こうにありますよ」
「よくも弟を殺しやがったな? てめぇ、楽に殺してもらえると思っているわけじゃねぇだろうな?」
「武文さんは女性を暴行していたんですよ。その点については、どう思います? つまり倫理的な話で」
橋場重樹は嘲笑ってから、
「下級国民をどうしようと、俺たちの勝手だろうが。誰のおかげで、この国が回っていると思っていやがる?」
「そのシンプルな考え方。素敵です。ですからご理解いただけますね? 僕もモンスターなので、冒険者は皆殺しです」
若原和香が痺れを切らした様子で言う。
「おしゃべりはいいから。とっとと殺しちゃおうよ重樹」
「和香。痛めつけるんだからよ。急所は外せよ」
「は~い。じゃ《火弾》」
若原和香から離れた火弾が、僕の右ひざに命中。吹っ飛ぶ。
片足になったので、こけた。
若原和香が歩いてきて、上から僕を見下ろす。そして楽しそうに、3発の《火弾》を発射。
僕の両腕の肘と、左足の膝に命中。
ところで何度も完全回復していると、いろいろとコントロールできるようになってきた。
つまり、いつどのタイミングで完全回復するのかを。まだその時ではない。
「ほ~ら、重樹。ダルマをあんたにプレゼントしてあげる」
若原和香が橋場重樹のほうを向いた。ダメだなぁ。敵から視線をそらしちゃ。
完全再生、そして《地獄神》を召喚。
若原和香が「はぁ?」という顔で、視線を戻してくる。
だがもう遅い。
《地獄神》のドリルビットを、若原和香の両足のあいだに──
ぐぉぉぉぉ。
「はぁぁ??!!ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁアアアアアアアアアア!!!」
「和香ぁぁぁぁぁぁぁ! イコライザーてめぇ、何してやがるぅぅぅぅ!」
橋場重樹が怒鳴り、その背中から水の龍が出現する。
ははぁ、これが《水龍》か。
僕はドリルビットを引き抜き、橋場重樹に向かって駆けだす。
だけど橋場重樹に到達する前に、水龍に上半身を食いちぎられる。
「思い知ったかぁ! はぁぁぁ? な、なんだそりぁぁぁ!」
下半身だけで激走し続けたので、驚かれたらしい。
数秒遅れて、上半身が完全再生。
「いま行きますよぉぉぉぉ」
橋場重樹の前に、芝野仁が立つ。
「行かせるかぁぁ、キモいモンスターがぁぁ!」
キモいとか地味に傷つくんだけど。
《鉄壁防御》が、僕の行く手を阻む。
おっと。《地獄神》はどんな防御スキルも貫ける。ただしサイズはドリルビットなので、このシールドを通り抜けるくらいの穴は作れない。
さて困った。
と、思っていたら、橋場重樹が助けてくれた。
「でかしたぜ、仁! 今度は跡形もなく消えやがれ、《水地獄》!」
《水地獄》。
溺死系のスキルかと思ったら、普通に破壊系だった。
魔法による水の渦が僕の肉体を削り取っていき──ついに消滅。
素晴らしい。
消滅したときのみ限定で、完全再生による出現場所を指定できるようになったのだ。
今のところ、20メートルが限界だけど。
今回は、芝野仁の背後に完全再生で出現。
ドリルビットを首筋に当てる。
「え?」
「どうもです」
「バ、バカめ。僕の防御力は高──」
「関係ないで~す」
スイッチオン。
ぐぉぉぉぉ。
「あぎゃぁぁゃぁゃぁぁゃぁゃぁゃぁぁぁ!」
脊髄を貫く。
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