9,御影さん、敵ながらいい仕事をする。
──主人公の視点──
「ララさん、深呼吸したらどうかな?」
「ううう……」
ララさんはすっかり弱り切って、深呼吸さえもできそうにない。
ダンジョン外に出るだけで、この拒絶反応。まさか全てのモンスターで起こることじゃないよね?
こう考えると、元第1階層メンバーの有能さが際立つような──。
ふと視線を転じると、この【無限ダンジョン】へと歩いてくる人がいた。
雲林院御影さんだ。
向こうから来てくれるなんてね──。
御影さんの視認と同時に《一心同体》を発動。
続いて《地獄神》を召喚し、ドリルビットを自らのこめかみに当てる──。
ところが頭蓋骨を抉る前に、時の流れが止まった。
全世界に対する時間停止。
またも肉体から出、浮遊する魂になって状況を確認。時が止まった世界を御影さんだけが歩いている。
と思いきや、消えた。
いやいや、御影さんは神速に近い速度で走り出し、ダンジョン内に入ったようだ。《時間支配》を使いつつ、《疾風》というスキルを併用したわけだね。
にしても、御影さんも風変りな人だ。時間停止の世界で《疾風》なんか使って、何を急ぐ必要があるんだろうね。
……あ、まさか。
御影さんがやろうとしていることは、実にシンプルだ。
時間停止の中で、僕の肉体の断片を探し出そうとしている。もちろん《熱線》で焼き払うために。
僕はいま、第656階層に置いてきた切断小指から完全再生することはできる。
しかし完全再生したとたん、時間停止の影響を受けて固まるだけだ。
だから完全再生しても意味はないんだけど、このまま小指を見つけられて焼かれたら。
すると、どうなるのか──もう詰んでしまいます。
『時間停止』タイムに制限がないとか、卑怯すぎるよね。これ、誰に抗議すればいいの?
とにかく御影さんを追おう。魂状態なので、移動速度は光なみ。
あっという間に、《疾風》中の御影さんに追いつく。
ところで御影さんは、迷いなくダンジョンを降りていく。針路上で固まっていたモンスターは、無数の氷刃で切り裂きながら。
もしかして、僕の小指がどこにあるか知っている?
探索系のスキルを使えば、可能?
何か妙案を思いつかないと、どうしようもないぞこれは。
で、結局は何も思いつきませんでした。
第656階層に隠しておいた小指は発見され、御影さんの《熱線》で焼かれる。
これで僕の『予備の肉体破片』はなくなった。
そのため僕の魂も、時間停止の影響を受けることになる。
なぜか?
これまで時間停止の中でも魂だけ移動できたのは、『予備の肉体破片』があったから。
それが無くなったので、まず魂は強制的に地上の僕の体に戻る。
そしてその体は、時間停止に囚われているので──
ここで、意識も途切れるわけだね!
さらば!
★★★
──美弥の視点──
美弥は地面の中から這い出して、大地に立った。
なぜか早苗が動かなくなったと思ったが──どうやら、この世界の全てが固まってしまったらしい。
というよりも、これは──
(もしかして、時間が停止しているんじゃないの?)
ふと見ると、〈たこ坊主〉がいた。美弥と早苗を追跡してきたのだ。
しかし〈たこ坊主〉も、いまは時間停止のため固まっている。
美弥は《闇黒の爪》で、〈たこ坊主〉の頸動脈を切っておいた。
これで時が動き出したら、切断した動脈からプシャーと血液が噴き出すことでしょう。失血死まで数十秒。
(にしても、どうしてあたしだけ自由に動けるのかしらね?)
そこで美弥はようやく、《闇黒の爪》が輝いていることに気づいた。
禍々しく輝いている。
「あら、《闇黒の爪》が自動で発動しているわ」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




