4,雲林院 御影。
──佐伯楓の視点──
雲林院家は、戦前から巨万の富を築いてきた。純資産でいえば、四徳家でもトップ。
現在、雲林院家の当主は御影という男。
「お久しぶり御影くん。あいかわらず人生を無駄にしてる?」
7か月ぶりに御影と会うことになった。楓が要請した会合だ。
御影という男は眉目秀麗、年齢不詳。氷のような目をしていて、楓はいつも抉り出したい眼球だと思っている。
「というかさ、ボクの人肉への愛をお忘れかな?」
御影は冷ややかに言う。
「貴様の変態食への嗜好を、なぜ私が覚えている必要がある?」
「いやいや。そこは友達の食の好みくらい覚えておこうよ。ってか、変態って酷くない?」
「私はヒマではない。用件を早く言え」
「都内の人肉専門の精肉店を摘発させているのは、お宅だよねぇ? いやね。初めは特高に影響力のある四十万家かなと思ったわけだよ。けど探りを入れてみたら、キミからの要請だったという話じゃないか」
四徳家の中では、佐伯家と良好関係にあるのが四十万家。
だから四十万家が好んで、楓の人肉喰いを妨害したとは思えなかった。
で、聞いてみたら案の定。
「カニバリズムという悪しき食習慣が、最上級国民の中に蔓延し始めた。これは思想的にも健康的にも悪以外のなにものでもない。ゆえに私は、四徳家の一員としてやるべきことをやったまでだ」
楓は、御影の眼球を見続けていた。
抉りたい抉りたい。
しかし楓のスキルでは、御影とやり合うのは分が悪い。
御影は時の流れを支配しているし。
「用件は以上か?」
「ふむ。キミに耳寄りな情報があるんだよ。そのネタをあげるからさ、ボクのために『オイシイ堂』くらい復活させてよ。あそこには四代目がいるからね。彼女に継いでもらいたい」
「私が知らないことで、貴様が有している情報などあるとは思えんがな」
「どうかな。【無限ダンジョン】の情報は、ボクのほうが豊富のはずだよね?」
現在の四徳家当主で【無限ダンジョン】に入ったことがないのは、御影のみ。
まったく興味がないらしい。
「【無限ダンジョン】のとあるモンスターが、キミを殺そうと企んでいるんだよ。そのモンスターたちの情報を提供できる。ね? ボクが有益な情報を渡すんだから、キミも譲歩してくれなきゃ」
「なぜ、貴様の言うモンスターの情報を知る必要がある? 現れたら、ただ殺せば済む話だ」
「そのモンスターは、≪原初の王≫のお気に入りだからね。イコライザーというんだけど。名前だけは、いま教えてあげる。とにかく≪原初の王≫がイコライザーに与えたスキル、これがチート級。知っておかないと、キミでも足元をすくわれるかも」
御影はしばし考えていた。即断即決のこの男にしては珍しい。
(そこまでして、ボクから人肉を奪いたいのかコイツは~)
御影の眼球をスープの具材にして食べたい。
「よかろう。すべてを話せ」
「『オイシイ堂』の件よろしく」
「イコライザーというのを、こちらが片付けた後だ」
「ふむ。まぁいいでしょう。じゃ交渉成立で~」
楓としては、どっちに転んでも美味しい。
イコライザーが雲林院御影を殺してくれるならば、四徳家の一角が滅んで『やったー』。
イコライザーたちが殺されたら残念だけど──御影に恩を売れたのでやはり良しとなる。
そして見返りに、『オイシイ堂』が復活するわけだ。
ただ楓の本音としては、後者しか有りえないだろうとも思う。
御影の《時間支配》スキルは、《殺しようがない》を上回る。
イコライザーの存在だけを、永遠に時間停止できるのだから。
それは時の牢獄といえるし、《自爆》で逃れることも不可。
よってイコライザーたちが雲林院家を滅ぼすのは無理な話だが──。
(まぁ、万が一イコライザー君が御影を殺っちゃったとしよう。そうしたら、大変だぁね)
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