7,「遠慮しなくていいの? やりたい放題?」。
せっかく橋場武文の兄が来てくれるので、僕としても精いっぱいの歓迎をしたい。
やはり問題となるのが、モンスターの少なさ。
というわけで第2階層まで降りた。
そこでゴブリン一家を見つける。しかし、どうも元気がない。腹を空かせているのは間違いなさそうだ。
さては、まともな食事をしていないな。
その苦しさは分かる。僕も昔、野草だけで三日過ごしたことがあった。ああいうとき、人はお肉が食べたくなるものだ。
「人肉が食べたいかぁぁ!」
ゴブリン一家が拳を上げる。
「おぉぉぉ!」
「じゃあ、僕について来ーい! 今夜はたっぷり食わせてあげる。人肉パーティだぁあ! 塩とコショウは各自で用意してーね!」
「おぉぉぉぉ!」
ゴブリン一家(父・母・子供5体)をゲット。
意気揚々と第1階層に戻ると、美弥がカナと歩いてきた。
「兄貴、武器庫に行くわよ」
「え、ここ武器庫なんかあったのか。けど僕には《地獄神》が、美弥には《闇黒の爪》があるよね?」
「もう兄貴はバカなんだから。このカナって子にも武器が必要でしょ。見るからに、『ゴブリンに輪○されるモブキャラ』みたいな顔してさ。あ、ゴブリンじゃん」
「美弥、カナさんに失礼だろ。謝りなさい。あとカナさん、怯えなくていいよ。ゴブリンたちはモンスター仲間は輪〇しないからね。女冒険者にしか欲情しないんだよね?」
僕がそう聞くと、ゴブリン父がうなずいた。
「うぎゃうぎゃ」
橋場兄がパーティ仲間に女冒険者を連れて来てくれると、ゴブリンたちも盛り上がるのだろうけど。
僕たちは武器庫に向かった。
武器庫は壁内タイプで、フロアボスの掌紋認証セキュリティ。
武器棚には剣や斧などが並んでいる。
「カナさんは小剣とかがいいのかなぁ」
するとオリ子がやって来て、
「お主たち、そんな旧式武器を選ぶ必要はないぞ。今朝、新たな武器が入荷したばかりだ」
新たな武器棚が壁から出てきた。そこに並んでいるのは、戦争映画で見るような銃火器だ。
「これまでの【無限ダンジョン】は、武器も中世ファンタジー止まりだった。冒険者への親切設定だったが、それももうおしまいだ。これからは冒険者を殺すのは剣ではない。AK47の時代だ!」
ゴブリン一家が重武装。とくにゴブリン父なんかはM60機関銃を装備し、弾帯を体に巻き付けた。見るからに強そうだ。
ただ一抹の不安。ランクの高い冒険者相手に、弾丸が通用するのかな?
と、ダンジョン内にあれが鳴り響く。コンビニの入店音が。
「あれ、オリ子さんこれは?」
「うむ。冒険者の侵入を知らせて欲しいとのことだったのでな。さっそく設置しておいたぞ」
「さすがオリ子さん、仕事が早い。じゃ、さっそく僕が──」
橋場兄たちを出迎えようとする僕を、ゴブリン父が止めた。
「うぎゃぎゃぎゃ、ぎゃ」
通訳すると、『フロアボスの旦那は、後ろでどっしりと構えていてくだせぇ。第一陣は、あっし達ゴブリン一家にお任せを』となる。
「ゴブリン一家……分かった。お願いするよ」
ゴブリン一家が小火器を撃ちまくりながら、第1階層の入り口へと走っていく。
「僕たちも追いかけて、ゴブリン一家の戦いを見届けよう。カナさんはここで待機していてね」
美弥を連れて、ゴブリン一家を追う。
さて。第1階層に入ったところは、体育館のように広い場所だ。激しい戦闘するにはもってこい。
ここでゴブリン一家が、橋場兄たちを迎え撃つ。
僕と美弥は少し離れたところで隠れて、見守ることにした。
橋場兄のパーティは3人。おっと女冒険者もいる。やったねゴブリン一家。
さっそく《個人情報取得》を発動。
──
冒険者005
最上級国民ランクA。
本名:橋場重樹 男 24歳。
これまでの主な悪事:モンスター虐殺、殺人、レイプ、傷害……
得意な魔法:《水地獄》
《水龍》
冒険者006
最上級国民ランクB。
本名:芝野仁 男 22歳。
これまでの主な悪事:モンスター虐殺加担、窃盗。
得意な魔法:《鉄壁防御》
《防衛要塞》
冒険者007
最上級国民ランクB。
本名:若原和香 女 23歳。
これまでの主な悪事:モンスター虐殺、殺人。
得意な魔法:《火弾連射》
《怒反撃》
特記事項:3人の関係性、サークル仲間。
橋場重樹と若原和香は恋人同士。
──
ゴブリン一家が小火器による猛射を仕掛ける。
しかし──
芝野仁による《鉄壁防御》が、全ての弾丸を防いでしまう。そして嘲笑って言う。
「雑魚モンスターどもが、生意気にも小火器なんか使いやがってよ」
「薄汚いゴブリンねっ!」
そう言ったのは、若原和香。
《鉄壁防御》の後ろから、若原和香が《火弾連射》を発動。
なるほど。あのシールドは、味方の攻撃は外へと通すのか。
そして数多の火炎弾が、ゴブリン一家を襲う。
ゴブリンたちの体が、砕けていった。
全滅。
「あぁ、そんなゴブリン一家が──!」
「あらら、瞬殺されちゃったわね。もしかして敵の冒険者たち、かなり強いんじゃない?」
「ゴブリン一家は、ただ人肉が食べたかっただけなのに。女冒険者を蹂躙したかっただけなのに。鬼か冒険者たちは」
僕の中に感じる、これは怒りの炎か。
「行くよ、美弥。フロアボスとして、ゴブリン一家の仇を取る。そして既に得たボーナス分とあわせて、計3500万円をゲットするんだ」
「遠慮しなくていいの? やりたい放題?」
「もちろんさ」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。