2,初めての女!!
「楓さん。もう夜遅くなりましたけど、客間に泊まっていきますか?」
という社交辞令に乗ってこられたらどうしよう、と冷や冷やしたけど。
「ううん、今夜は帰るよー。枕が変わると寝られないんだぁ。ボクさ、繊細だから」
うん? 誰が繊細?
翌日。
第656階層に出勤してみると、阿修羅さんはモンスター病院に入院したと分かった。昨日、みなを指揮したララさんが、フロアボス代理を務めることになる。
とはいえ第656階層ともなると、そうそう最上級国民さんも来ないだろうけど。
さて。
昨夜の楓さんの誘いに乗るなら、こちらもベスト・メンバーで挑む必要があるよね。四徳家の雲林院家さんと事を構えるなら、万全で望まないと。
第50階層まで行き、スター〇ックス【無限ダンジョン】支店へ。そこで呪文のような名前の珈琲を買ってから、モンスター病院に向かった。
「美弥、お土産の呪文のような珈琲」
「あんがと兄貴」
美弥は再接合したばかりの手で、珈琲の容器を取る。
「ところで兄貴、あたしが入院している間に、勝手に楽しいことはしないでよね?」
「分かってるよ」
美弥を置いていくと恨まれそうだ。やっぱり退院するまで待とうか。
その後、僕は第3階層に向かった。
ここで早苗さんが一般モンスターをやっているはずだけど──
第3階層に入るなり、血まみれの最上級国民さんたちの死体が転がっていた。その数は、ざっと80体。
死体の山のそばでは、モンスターたちが恐怖のあまり互いに抱き合ってふるえていた。
やがて死体山が作る影から、早苗さんが現れる。全身を返り血で染めながら、伸びをして欠伸。
「朝から運動したよ~」
僕はそばにいたモンスターに聞いた。
「凄い数の最上級国民さんが来たんですね?」
「え? あ、ああ。全員、学生だった。しゅ、修学旅行だよ」
なるほど。確かに死体は全員、高校生だ。
「第1階層も第2階層も、この最上級国民学生どもの修学旅行で蹂躙されたんだ。オレたち第3階層のモンスターだって、今朝は殺されることを覚悟していたんだ。ところが──昨日来たばかりの新入りが……」
「早苗さんですね。モンスター名は影女」
「影女が皆殺しにしてしまった。影から影へと飛び移りながら、影の刃や弾丸で殺しに殺し」
ここでようやく、早苗さんが僕に気づいた。
「あ、知樹くん!」
早苗さんが影移動してきて、僕の影にダイブ。
「もう寂しかったよー! どうして昨日は会いにきてくれなかったの?」
「昨日は忙しかったんだよ。〈灼熱の蹂躙者〉という人が来て──」
さっきまで話していたモンスターが、呆然とした様子で僕に聞いてきた。
「あ、あんた、この影の女と知り合いなのか?」
「早苗さんとは友達──じゃなくて恋人ですよ」
早苗さんに睨まれたので訂正したのです。
「どうも、僕はイコライザーといいます」
とたん第3階層のモンスターたち全員が、声を上げて驚いた。
「イ、イコライザー! まさか、〈鬼畜王〉さまでしたか! ということは、こちらの方も第1階層レジェンド・メンバーのおひとり!! どうりで化け物のように強いわけですな!」
早苗さんが嬉しそうに言う。
「知樹くん。わたしたちのイチャラブぶりが、ダンジョン内で評判だよ」
うーん。なんか違うと思う。
「とにかく早苗さん。しばらくはこの階層で頑張ってね」
「でも知樹くんがいないと寂しいよ」
「少しの辛抱だから。僕が、元の第1階層メンバーを再集結できるようにするからね」
そのためにはオリ子と会う必要があるけど。
いますぐ動くのは得策ではないような気もする。
「あと、ちかぢか四徳家さんを狩りに行くからね。その時は呼ぶから」
「デートだねっ!」
「うーん。デートじゃないような」
「あと誰が行くの?」
「そうだね、まず美弥」
「妹さんは仕方ないよね」
「あとカナさん」
昨日、カナさんは無事に〈灼熱の蹂躙者〉さんをゾンビ化した。今や元Sランク最上級国民を手駒にできるようになったわけ。その戦力は計り知れないよね。
ところが、早苗さんは不満そうだ。
「ねぇカナさんって、知樹くんの何なの?」
「え、カナさん? そうだなぁ。はじめて、僕がモンスターにしたヒトだけど」
「それってつまり──知樹くんの初めての女!!!」
その解釈は、何か根本から間違っている。
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