2,ビビる阿修羅さん。
「サイクロプスさん、どうされたんですか? なぜ悲鳴を上げているんです? まるで赤ちゃんみたいじゃないですか?」
するとサイクロプスさんではなく、背中に翼の生えた女の人が飛んできて言った。
「なんで悲鳴を上げているかって、あんたが体内を掘り進んできたからでしょ! サイさんから早く出てきなよ!」
サイさんというのが、サイクロプスさんの愛称らしい。
それはそれとして、信じられない話を聞いてしまった。
「待ってください。まさか体内を抉られただけで、サイクロプスさんは悲鳴を上げているんですか? ちょっと肉を削られ、臓器の位置がずれただけで? それだけで、こんな人間のような悲鳴を?」
翼の女の人が、何か狂気を見たという顔で言う。
「あ、当たり前でしょ? 悲鳴あげるでしょ普通?」
「いやいやいや、それは人間の『当たり前』ですよ。えーと?」
「……ララよ」
「ララさん。モンスターならば、この程度の痛みで悲鳴を上げるなんて信じられない話ですよ。第1階層の元部下たちは、手足を斬られ頭をもがれても笑っていましたからね」
そんなような記憶がある(適当)。
青ざめるララさん。
「そ、それは──その、ちょっとサイさん、いつまで悲鳴あげているの? 新入りにバカにされているよ!」
「サイクロプスさん、いま話やすいところまで行きますよ~」
現在、僕はサイクロプスさんの腹部から『こんにちは』している。しかしサイクロプスさんは、25メートルの身長だ。頭の近くに行ったほうが会話もしやすいよね。
というわけで、まずサイクロプスさんの体内に戻る。そして昇る。ロッククライミングの要領で、肋骨とか血管とかを手掛かり足掛かりにして、頑張ってよじ登っていく。
サイクロプスさんの内側を伝わってくるのは大絶叫。
サイクロプスさん、この程度で音を上げていちゃ、モンスター失格ですよ。
鎖骨まで登り切った。この平均台みたいのが、サイクロプスさんの鎖骨です。
そこに腰かけてから、皮膚を突き破って外に出る。
ふぅ、新鮮な空気。僕の口の中に入り込んでいた、サイクロプスさんの肉と血を吐き出した。
「どうもです、サイクロプスさん」
「ぎゃぁああああああああああぁぁぁぁぁ……………!!!」
白目をむいたサイクロプスさんが、仰向けにひっくり返ってしまった。
そのさいの衝撃で、僕はサイクロプスさんの体から飛び出して床を転がる。
よいしょと立ち上がると、周囲に第656階層のモンスターさんたちが勢ぞろい。
「サイクロプスさん、大丈夫ですかね?」
僕の問いかけは無視され、ヒソヒソと話される。
「信じられんサイクロプスの旦那が倒されるなんて」
「Aランク冒険者とも渡り合ったサイクロプス様が」
「なんなんだ、この人間もどきのモンスターは?」
「体内に入り込んで削りまくるとか、こいつは鬼畜か」
などなど。
もしかして第一印象に失敗した? 困ったなぁ。新しい任地だから、みんなとは仲良くしたいのに。
ふいに全ての話声がピタリと止んだ。ぴーんと張り詰めた空気となる。
モンスターたちの視線が、一斉にある方向へと向けられた。
そこから歩いてくるのは、興福寺の阿修羅像そっくりなモンスター。
ははぁ。彼がここのフロアボスである阿修羅さんだね。ひねりがないのが素晴らしい。
阿修羅さんが地獄の底から響くような声で言う。
「一体なんの騒ぎだ?」
とたん、656階層のモンスターたちが一斉に報告しだした。
「阿修羅さま! 新入りがサイクロプスさんを半殺しにしました!」
「とんでもねぇ野郎です! 是非とも阿修羅さまのお力で身の程をわからせてやってください!」
「阿修羅さま! 第656階層の怖さをこの人間もどきに教えてやってください!」
阿修羅さんが面倒そうに言う。
「まったく仕方のない奴らだ。人間もどき如きに、何を騒いでいるのか。どれ。この私がひねってくれよ──」
ようやく阿修羅さんが僕に気づいた。
僕を見たとたん、顎ががくんと落ちる。
「ま、ま、まさか、新入りの人間もどきというのは──あ、あんたのことか? いやまさか、そんな。その、名前は?」
「イコライザーといいます、よろしくお願いします」
「ぎゃぁぁ、やはりイコライザーぁぁあ!! ではなくイコライザー様ぁぁ!!!! Sランクを殺しまくり、ついた二つ名が〈鬼畜王〉!! そんなイコライザー様でしたかぁぁぁあ!」
いつの間にか、変なあだ名をつけられていた。
これって、クラス替えあるある?
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