5,「安心安全でモンスターを殺しまくれるとでも思ってましたか? それは大きな誤解ですよ」。
視界に、メッセージ画面が現れた。
『冒険者殺し3人達成、おめでとうございます。ご褒美の新スキルをどうぞ~』
冒険者を殺すたび、新スキルをゲットできるらしい。親切なシステムだ。やはり【無限ダンジョン】、ホワイト企業と見た。
人間やめることになったけど、細かいことは気にするな。
ところで新スキルとは、《個人情報取得》というもの。
どんなスキルだろうと考えながら、冒険者002とカナを追いかける。
見えてきた。カナに伸しかかる冒険者002は、背中をこちらに向けている。
そして冒険者002を視界に収めたとたん、またもメッセージ画面が開いた。
【冒険者002
最上級国民ランクD。
本名:橋場武文 男 19歳。
これまでの主な悪事:殺人、レイプ、傷害……。
得意な魔法:《水弾》
《水刃》】
なるほど。視界におさめた冒険者の個人情報が分かるスキルかぁ。
どうやら橋場は水属性魔法が得意のようだね。
「こほん。えー、橋場武文さん」
僕が後ろから声をかけると、橋場がギョッとして振り返ってくる。
「てめぇ、なんでここにいやがる? 田中たちはどうした?」
「田中というのは冒険者003か004のことですね。えー、申し上げにくいんですけど、殺しちゃいました」
「殺しただとぉ?」
そうして口をあんぐり開けた橋場は、おかしなことを聞いてきた。
「なんで──なんで殺しやがった?」
「え? だって──僕はフロアボスですし、お宅たちは冒険者でしょ? 冒険者が【無限ダンジョン】に一歩でも足を踏み入れたら、死と隣り合わせ。そう教わりませんでした?
まさか、安心安全でモンスターを殺しまくれるところとでも思ってましたか? それは大きな誤解ですよ」
「ふざけんじゃねぇぇ!」
橋場が《水刃》を発動。
僕の両足が膝のところで切断された。
当然、膝から上は倒れてしまう。
ここで橋場が畳みかける。仰向けに倒れた僕へと、《水弾》を連射してきたのだ。
僕の体を跡形もなく粉砕しようというわけ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死にやがれぇぇぇぇぇ!」
橋場が額の汗をぬぐい、勝ち誇る。
「どうだ、思い知ったか?」
瞬時に完全回復した僕は、仰向けから跳ね上がる。そして、驚いている橋場にしがみ付いた。
「て、てめぇ、どうなってやがる──くそ、離れろ、離れろぉぉ!」
「ちょっとお待ちくださいね~」
ドリル型マジックアイテム《地獄神》を召喚。ドリルビットを橋場の左わき腹につきつけて。
「では参りま~す」
スイッチオン。
ぐぉぉぉ。じわりじわりと入っていきます。
「ま、まで、マジで、や、やべろぉ、か、カネを、く、くれてや、やるからぁぁぁぁぁぁ!」
「ご安心を。これでさらに500万円もらえるんで」
ドリルビットが胃に達したあたりで、橋場の口から血が噴き出してきた。
「やべろぉぉぉぉ死んじまぅぅぅぅぅ!」
瞬間、橋場の全身から水の刃が出現。しがみ付いていた僕も貫く。
さらに水刃が伸びていき、僕を吹っ飛ばした。床を転がっていき、立ち上がったときには貫通穴は回復済み。
一方、橋場は逃げ出している。興味深いのは、その逃げ方。
足元に水で波をつくって、サーフィンするように逃げていくのだ。その速いこと速いこと。通路を右に曲がって見えなくなった。
「さすがDランクだよね。一筋縄ではいかない。だけど橋場さん、僕にも得意なことはあってね」
道を覚えるのは得意だ。さっき迷いに迷ったおかげで、第1階層のMAPは脳内で構築済み。
橋場が曲がった通路から、先回りするルートを検索。
ふむ。こっちだ。一定のペースで駆け足!
「えっほえっほえっほえっほ」
主要通路へと飛び出すと、ちょうどサーフィンしてきた橋場が移動してきたところだった。
逃げられたと安心していた顔に、恐怖が現れる。
「て、てめぇぇ、どうやってっ──!」
橋場に向かって、タックル。
同時に、《地獄神》のドリルビットを頸へと押し込んでやる。
ぐぉぉぉぉ。
「うぶぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」
波が消えて、橋場が倒れる。頸の穴からは激しい出血。
それを橋場は両手で押さえ、なんとか止血しようとしている。
「た、たす……たす、け、けけ……」
そんな橋場へと屈みこんで、
「すいません、それは無理なんですよ」
額にドリルビットを当てて、押し込んだ。
ぐぉぉぉぉ。
「ふぅ。一日で2000万円も稼いでしまった……【無限ダンジョン】、なんて優良企業なんだろう!」
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