3,親切な人は多い。
美弥が新たなスキルを会得した。
《自己回復》というスキルを。
これは一定のダメージまでならば、速攻で回復できるというスキル。
《闇黒の爪》の覚醒には至らなかったけど、結果オーライ。
「これも僕の『お兄ちゃん愛』のおかげだね」
美弥がしみじみと言う。
「鬼畜ボコりから生き残るための進化ね」
ふーむ。《闇黒の爪》の覚醒はなく防御力も低いままだけど、回復スキルを入手したのならば大丈夫そうかな。
「じゃ、次の休みにはサプライズに行くよー」
「早苗はなしよ兄貴」
最近、美弥の早苗さんへの敵対心が強い気がする。こっそりとデートに行ったのを、まだ根に持っているらしい。
デートに行ったのが間違いだったのかー。
否、バレたのが良くなかった。ちゃんと隠しておけば良かったのだね。早苗さんにちゃんと緘口令を敷いておけばなぁ。
「兄妹で水入らずだよ」
と、約束する。
とはいえ、まだ葉島彰浩さんの居所を掴めていない。
この成り行き任せなところ、我ながら良くないなぁ。
次の休日までに、どうにか見つけよう。
誰かの居場所を知りたいときは、知っていそうな人に低姿勢で尋ねるのが正しい。
とりあえずSランクの人なら、ご存じではないかな。
Sランクのリストから、手ごろな人を選択。
鹿田という人が、高級住宅街に住んでいる。この住宅街は以前、誘拐された美弥を助けに来たときにも来ている。
あの時は小梨くんに運んでもらったけど、今回はタクシー移動。
タクシーを使えるなんて、僕も出世したものだなぁ。
高級住宅街を進み、鹿田邸に到着。
インターフォンを鳴らしたけど、応答なし。玄関扉が開いているので、中に入ってみた。
「お邪魔しまーす」
すると、僕と同年代の男の人が駆けてくる。敵意は感じられず、何だか必死な形相だ。
「た、助けてくれぇぇえ!」
そう言われると、なぜだろう。
親切心から、殺してあげたくなるのは。
《地獄神》を召喚して、その人の頸に刺した。
その人は頸から大量に血を噴出させながら、廊下を転げまわる。やがて失血死した。
「いまキミが殺した子はね、この鹿田家の次男だよ」
という声が、廊下の先からする。
電灯が切れているので、暗闇から白い髪の若い女性が登場。
「あ、お久しぶりです。佐伯楓さん」
「ボクが殺そうとしたのに、かわりに殺してくれてアリガト」
いまの『アリガト』は本心ではないね。どちらかというと、勝手に殺してくれちゃって、という責めを感じさせる。
「すいません、つい殺しちゃいました。お姉さんの獲物だったんですね」
「う~ん。ついなら仕方ないっかぁ。キミも悪気があったわけじゃないし」
楓さんの右手にはコルク抜きが握られていた。
そのコルク抜きを見ていると、《地獄神》が震えるのを感じる。
これは武者震い的な感じかな?
「イコライザー君。キミ、鹿田家を皆殺しにきたの? 働きものだねぇ」
「いえ、今回は人探しに来たんですよ。Sランクさんならご存じかと思って。葉島彰浩という方を探していまして」
楓さんの右手から、コルク抜きが消えた。
「はぁ。葉島ちゃんのお兄ちゃんをねぇ」
僕も《地獄神》を消す。
「ところで楓さんは、こんなところで何していたんです?」
「鹿田さんちを、皆殺しにしていたんだよねー。奥さんと2人の娘は殺り済みで、次男くんはキミがかわりに始末しちゃったわけ。あとは長男くんだね。まだ帰宅してないみたいだよ」
【四徳家】ともなると、Sランクも気儘に殺せるらしい。
気づくと、楓さんの右手にはまたコルク抜きが現れていた。
「これはね、《神殺し》。【無限ダンジョン】第2564階層の宝箱から見つけたんだよねぇ。面白いよ。捻るだけで、いろんなものを引きずり出せる」
楓さんが《神殺し》を捻ると、僕の胸部から心臓がズルズルと引きずり出されていく。
これだと防御力とか関係がなくなるね。
僕が感心していると、庭のほうから怒声が聞こえてきた。
「佐伯楓! 出てこい!」
楓さんが《神殺し》を捻るのをやめる。
「なんだろね?」
僕は心臓を押し戻そうとしてから断念し、完全再生した。
楓さんに続いて、玄関扉から外に出る。
庭には5人の男女が立っていた。
《個人情報取得》によると、全員がSランク。
リーダー格の名前は、鹿田紘。つまり鹿田家の長男さんか。
その紘さんが、楓さんを指さす。
「貴様の横暴もここまでだぞ、佐伯家! ここで貴様を殺し、家族の仇を取ってくれる!」
紘さん、家族が犠牲になったのを知っているらしい。
その上で、仲間を引き連れて楓さんを討ちに来たわけか。
楓さんが僕を見やった。それから紘さんたちを指さして、
「ボクより多く殺せたら、葉島彰浩の居場所を教えてあげる」
ほう。この人、思ったより親切だぞ。
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