2,《神殺し》というコルク抜き。
──佐伯楓の視点──
ここのところ、【無限ダンジョン】での最上級国民の死亡率が高まっている。
より詳しく言うならば、第1階層での死亡率が。
先月の半ばから今月に入ってからは、死亡率が驚異の100パーセントだ。
第1階層に降りた最上級国民たちで、生きて帰った者はいない。
その難易度は、【無限ダンジョン】の4桁階層クラス。
で、Sランクでさえも4桁階層まで進んだ者はいない。
4桁階層クラスは、【四徳家】だけの遊び場。【四徳家】だけしか楽しめない難易度なので、当然。
ところがそんな難易度『完全死亡』が、第1階層に出現してしまった。
最上級国民たちが安心安全でモンスターを殺しまくれる【無限ダンジョン】が、地獄の様相を呈し始めているわけだ。
そこで佐伯家に問題解決の依頼が来た。
というのも【四徳家】の中で、佐伯家は最上級国民たちの相談役として機能してきたので。とくにSランク一族たちの。
いま楓は、鹿田家の当主と対面していた。
場所は、佐伯邸にある楓の執務室。
鹿田家はSランクの或る派閥を代表して、こうして面会を求めてきたわけだ。
要請は、第1階層の問題を解決すること。
楓はデスクに両足を乗せて、あくびした。
「でー、具体的にはー、ボクにどうして欲しいのー?」
鹿田が答える。
「我々が得た情報によると、第1階層のフロアボスが規格外のようです。ですから佐伯様には、このフロアボスを排除していただきたい」
鹿田がイライラしているのが伝わってくる。
Sランクの鹿田が、他人に頭を下げる機会などゼロに等しい。【四徳家】を相手にしているときだけだ。つまり、今。
「ふーん」
楓は考えてみる。
イコライザー君と殺し合うのは、楽しそうだ。ワクワクする。
しかし、まだ早い。
鹿田は気づいていないが、いま行われているのは『選別』なのだ。
だいたい最上級国民の血筋があるからといって、選民意識を持つのは間違っている。というか、いまの最上級国民は質が酷すぎる。長らく安穏としていたツケが回ってきているのだ。
イコライザー君にはもっと頑張って、ガンガン最上級国民どもを殺してもらいたい。それが選別となるのだから。
だから楓の回答は、当然こうなる。
「嫌だよー」
鹿田が驚き、憤慨する。
「断られると? あなたは自分の責務を放棄するつもりか!」
「ボクの責務って?」
「我々を危難から救うのが、佐伯家の務めではないのか!」
「鹿田くんさぁ。その言い草じゃ、ボクはまるで君たちの使用人みたいじゃぁないかぁ?」
鹿田はハッとした。いまさらながら失言だったと気づいたのだろう。ここで謝罪していれば、楓も許してあげたのだが。
Sランクとしての驕りが、鹿田を暴走させた。
「貴様ら【四徳家】は、我々があってこそ成り立っているのではないか!」
「ほう?」
楓は右手を突き出し、《神殺し》を召喚した。
見た目は、ただのコルク抜きだが。
鹿田はそんなコルク抜きを見たとたん、顔面蒼白になる。
「も、申し訳ございません。無礼をお許しくだ」
「もう遅いなぁ」
楓は座ったまま、《神殺し》を捻る。
すると離れた場所に立っている鹿田の頭頂部に、穴が開く。
そしてその穴から、脳味噌が引きずり出されてきた。
「ああぎゃぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ…………!!!!」
鹿田は脳味噌を押し戻そうとしたが、最後には力尽きた。脳だけがズルズルと穴から出ていく。
理論上では、《神殺し》を使えば≪原初の王≫の心臓も引きずり出せるそうだ。まだ試せたことはないが。
楓はしばし考えてから、秘書に命じた。
「当面、第1階層に入らないよう、全ての最上級国民に通達しておいてねー」
『獲物』が入ってこなくなれば、イコライザー君たちは自分たちから狩りに出るしかない。
これまで以上に、積極的に。
★★★
──主人公の視点──
『お兄ちゃん愛』に溢れる妹ボコり中。
たまには棍棒もいいよね。
そのときだ。
僕はハッとした。
「フロアボスとして、直感した。いまこの瞬間、誰かから嫌がらせを受けようとしている」
全身が複雑骨折中の美弥が、うつ伏せに倒れたまま言った。
「……兄貴……病院に……行きたい」
「美弥、誰がこんな酷いことを! まぁ僕だけど、ちょっとやり過ぎた? これから、お兄ちゃんが付きっ切りで看病してあげるからね」
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