1,『お兄ちゃんは妹のため鬼になる』モード。
翌日。
僕は一人で第50階層まで行き、サーティ〇ン【無限ダンジョン】支店でオリ子を見つけた。
「オリ子さん、ご無沙汰です」
「おお、イコよ。昨日はAランクを狩りまくったようだな。さすが、わらわのお気に入りだ」
「どうもです。ところで、今日はお尋ねしたいことがありまして」
「うむ。何でも聞くがよい」
「美弥と約束したんですよ。こんど、『特別なSランク』を狩りに連れていくって。それでお聞きしたいのは、佐伯楓という最上級国民のことなんですけど」
オリ子はお尻をつねられたような顔をした。
「お主、ついには【四徳家】に手を出そうというのか? 恐ろしい子よ」
「誰ですか、それ」
「ふむ。どんな世界にもヒエラルキーとは存在するものだ。『3人いればイジメが起こる』とも言うだろう? イジメもまたヒエラルキーによる現象の一つだ。そしてSランクという、最上級国民の頂点でさえも、さらなるヒエラルキーがあるのだ」
「階層構造の中の階層構造ですね。つまり頂点の中の頂点?」
「うむ。それこそが【四徳家】だ。佐伯家もまた【四徳家】のひとつ。楓はそこの当主だ。【無限ダンジョン】を第4274階層まで踏破した化け物でもある。一度もセーブポイントを使わずに、だ」
セーブポイントとは、【無限ダンジョン】を出ても『その階層から再開できる』というもの。
楓さんがそれを使わなかったということは、一度も外には出なかったわけだね。
「それは正真正銘の化け物ですね。僕たちモンスターの立つ瀬がない」
「あのときは、わらわも大変だった。佐伯楓が殺したモンスターは、万単位。その分の補充をするため、何日も眠らずに働いたものだ」
「オリ子さんが直々に出向いて、楓さんを殺せば良かったのに」
「お主なぁ、わらわは【三千世界のラスボス】だぞ。そう簡単に姿を見せてどうするのだ。威厳というものがある、威厳というものが」
【三千世界のラスボス】こと幼女が、ストロベリーアイスをぺろぺろ舐めている。
これがオリ子のいう威厳なのかぁ。
「美弥と一緒に、楓さんでも狩りに行こうかと思ったんですけど」
「ふーむ。確かに『イコライザーvs佐伯楓』は見てみたい気はするがな。規格外と規格外が戦ったら、どっちが生き残るのか。だが妹の猫娘は瞬殺されるぞ」
美弥が死んでしまったら、お兄ちゃんも生きていても仕方ない。
「そういえば美弥も、楓さんだけは怖がっていたような」
「猫娘の本能が命の危険を知らせていたのだろうな」
「美弥の機嫌を直すには、どうしたらいいですかね?」
「ふむ? そもそも、なぜ猫娘は不機嫌になっているのだ?」
「なんか、僕が早苗さんと≪人狩りデート≫行ったのが気に入らなかったみたいで」
素晴らしいアイディアが閃いたという顔で、オリ子が言う。
「ならば猫娘に、お主の恋人を殺させてみろ。ご機嫌になるぞ」
さすがオリ子、鬼畜さんだね。
「却下です。あと早苗さんは、別に恋人じゃないですよ」
「誰もが否認から入るものだ」
★★★
その後、気づいた。
葉島彰浩さんがいるではないか。
彰浩さんには、美弥に殺されていただくとしよう。
それで美弥の機嫌も直り、『お兄ちゃん大好き』な妹に戻るはず。
ただ今の美弥だと、彰浩さんと1対1の戦いは厳しい。
かといって助太刀しても怒るだろうし。
やはり、美弥をレベルアップさせるしかない。
というわけで、その日の午後。
「美弥。《闇黒の爪》の力を覚醒させるときだよ」
Eランクの頭の皮を剥いでいた美弥を呼んで、僕はそう言った。
「もうとっくに覚醒させているわよ?」
「いいや。《闇黒の爪》の真の力は、そんなものではないはず。ただ切り刻むだけじゃないんだよ、その爪は」
「なによ兄貴。そんな真面目な顔してないで、はやくサプライズに連れて行ってよ」
「サプライズの前に、まずは《闇黒の爪》を使いこなせるようになってもらうよ美弥。フロアボスの僕が直々に訓練してあげる。模擬戦闘だ」
「兄貴が? やめてよね。シスコンの兄貴が、あたし相手に戦えるはずが──」
僕の右手には、ホブ雄さんからレンタルした棍棒。
その状態で《自爆》を発動し、跡形もなく吹き飛ぶ。
瞬時に、美弥の数センチ先で完全再生。
所持品の棍棒もちゃんと再生されるのが、《殺しようがない》のいいところ。
そして棍棒で、美弥の腹部を殴り付ける。
「あぐっっ!!」
美弥は後ろに転がり、お腹を抱えた。
「マ、マジなの、兄貴?」
「今日の僕は、マジです。言うなれば、『お兄ちゃんは妹のため鬼になる』モードです。美弥が覚醒するまで、ボコり続けるよ! お兄ちゃんは、頑張る!」
「それ、ただの鬼畜じゃないの兄貴!?」
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