10,美味しい、お肉。
美弥をモンスター病院に運び込んだあと、萱野さんを第一階層に招待する。早苗さんの影収納で運んできたわけ。
このとき萱野さんは、すでに両手足がなかったので影からも出しやすかった。
「よいしょっと」
萱野さんを床の上に置く。せっかくなので、今日は大鉈を使いましょう。
大鉈をカナさんへ差し出す。
「はい、カナさん」
「えっ、わたしですか?」
「カナさん、まだ『冒険者を狩ろう! 狩れなかったらハンバーガーの具材だよ!』をクリアしてなかったでしょ。だから、どうぞ」
早苗さんが不満そう。
「えー、いいなぁ。カナさん特別扱いで、いいなぁ~」
覚悟を決めた様子のカナさんが、大鉈の柄をつかむ。そして頭上に振り上げた。
「い、いきます!」
萱野さんが叫ぶ。
「ま、ままままままま、まてぇぇえ! ま、まってくれぇぇぇ! や、やや、ややめでぇぇぇぇぇぇ!」
「えいっ!」
カナさん、萱野さんの首へと大鉈を振り下ろす。
血を噴き出しながら絶叫する萱野さん。
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあ!!!!」
非力なカナさんだから、一撃でスパッとできなかった。
即死できなかった萱野さん、残念。
カナさんは頑張って、何度も振り下ろす。
「えいっ! えいっ! えいっ! えいっ!」
それを眺めながら、僕はふと思いついた。
「今夜は、ビーフシチューにしよう」
★★★
──佐伯楓の視点──
楓は料理が好きだ。
こだわりがある。食材の買い付けから、自分でやっている。
今日も行きつけの精肉店『オイシイ堂』で、美味しい肉を見極めようとしていた。
10代前半の全裸の少年少女たちが、それぞれ人用の鳥籠に入れられている。楓は鳥籠を回っては、同じ問いかけをしていた。
「キミは美味しいお肉なのかな? ボクに食べられる価値があると思う?」
たいていの少年少女は泣きながら命乞いしてくるだけ。ただたまに敵意の眼差しを向けてくる子がいる。
今回は14歳の少年だった。
『許さないぞ。ぼくにも人間としての尊厳があるんだ』という目。
楓の経験では、反骨精神こそが肉を味わい深いものにする。
「これ、買いね~」
『オイシイ堂』の3代目が解体用チェーンソー片手にやってきた。美味を最大限、肉に封じ込める秘訣は何か? 生きたままの解体である。
ちなみに3代目はまだ高校生で身長2メートルあり、全身が筋肉の塊。そして卓球部。
「お兄ちゃん! 誰かお兄ちゃんを助けて!」
楓はハッとして、別の鳥籠へ視線を向けた。12歳の少女が泣きながら、哀願している。
「兄妹かぁ。兄妹はいいよねぇ。3代目、ちょっといいかな」
「はい」
「まずお兄ちゃんの前で、妹ちゃんを解体してみようか。憤怒と悲憤が、よりいっそうお肉を美味しくしてくれるはずだからさ~」
「かしこまりました」
解体中の阿鼻叫喚。
それを眺めながら、楓は呟いた。
「今夜はシチューだよ。人肉シチューだよー」
スマホに着信。
「あい、もしもし~」
それは萱野邸での事件を知らせる電話だった。萱野堅持が襲撃され、【無限ダンジョン】に連れさらわれた。もう生きてはいないだろう。
邸宅には、萱野が解体された痕跡も残っていたという。
「イコライザーくんの仕業だね。うーん。あの子は、ボクと波長が同じだよねぇ。獲物は即解体とかさ。こんどボクの料理を振る舞いたいものだよ」
とはいえ、イコライザーは働きすぎ。
このペースでSランクを狩り続けたら、【四徳家】会議が始まりそう。
どんな食物連鎖にも、頂点に君臨する者たちがいる。この国において、それはSランクの連中ではない。
Sランクを含めた全ての国民を支配し、オモチャにする権利を持った者たち。
ランクを超越した者たち。
それが四大の君主家、すなわち【四徳家】。
楓は【四徳家】がひとつ佐伯家の当主だった。
「他の奴らと顔合わせるの、イヤだなぁ~。みんな性格悪いしさ」
自宅に帰り、手に入れたばかりの食材を使って、腕によりをかける。
今夜はご馳走する相手がいるので、自然と料理にも熱が入る。
「どうぞ、シチューが出来たよ~」
食卓の席には、葉島小夜がついていた。もちろん楓が招待したのだ。
抉られた両眼は、いまは包帯を巻いている。とはいえ葉島小夜ならば視力がなくとも、食事くらいは簡単にできる。
「さ、召し上がれ」
小夜はスプーンを手に取るも、そこで固まる。
「……あの、楓さま」
「なぁに?」
「この肉は……な、なんの肉なのでしょうか?」
「ボクの食事の噂を聞いたね? 大丈夫。それは牛肉だよ。ボクを信じて」
「……は、はい」
恐るおそるといった様子で、シチューを食し始める小夜。
楓は満足な気持ちで、それを眺める。
「葉島ちゃんさ、キミをボクの騎士にしてあげるからねぇ。もっともっと強くしてあげる。いつの日か、キミの右眼を抉ったモンスターに復讐できるように」
「……ありがとうございます」
「いいって、いいって」
楓は自分もシチューを食べ、美味なる肉を噛みしめた。
「ところでさ、葉島ちゃん」
「はい?」
「ごめん、さっきの嘘。それ人肉」
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