9,早苗さん、いいお嫁さんになるね。
大鉈でスパスパ切断していると、早苗さんが声をかけてきた。
「知樹くん、楽しそうなところ邪魔して心苦しいんだけど」
「うん?」
「妹さんが殺されそうだよ」
そうだった。
美弥は葉島彰浩さんとのバトルに突入していたんだった。彰浩さんは言うなればボス格、いまの美弥では手に負えない。
早苗さんに大鉈を渡す。
「じゃ早苗さん、残りをよろしく」
早苗さんは萱野さんを見下ろした。右腕は5分割したところで、いまは左腕に入ったところ。
「えーと。どうするの?」
「最終的には【無限ダンジョン】に運び込むから、殺さない程度にスパスパやっておいて」
「大鉈なんかで、Sランクさんの防御力を突破できるんだねぇ」
「そうみたい。身体的または精神的なダメージは、防御力や攻撃力にも影響を与えるようだよ」
早苗さんが大鉈を振り上げて、勢いよく叩き込む。
軽快な音を立てて、萱野さんの左手首がスパッとされた。
叫ぶ萱野さん。
「やめぇぇぇろぉぉぉぉ! わ、わわわわわ、私の体を、もう分解ずるなぁぁぁぁぁぁ!」
鼻歌を歌い始める早苗さん。
それは『人肉の解体作業って退屈だけど、仕事なら鼻歌まじりに楽しんでやらないとね』という感じ。
早苗さんは、いいお嫁さんになるね。
ところで、萱野さんといた残り5人のSランクは逃亡してしまった。まぁ日を改めて会いに行くからいいや。
大広間の砕かれた窓から、外に出る。
広い庭で、美弥と彰浩さんは戦っていた。
美弥の鋭い攻撃も、彰浩さんには届かない。美弥は苛立っている。
しかし彰浩さんも困惑しているようだ。《虚無刃》が、《闇黒の爪》に弾かれる現状に。
なるほど。《虚無刃》はどんな物質でも切断できるのだろうけど、美弥の《闇黒の爪》は別格というわけだね。
などと分析している場合でもないか。
「おーい、美弥! お兄ちゃんが助太刀に行くよ~!」
大声で呼びかけたところ、美弥と彰浩さん双方から反応があった。
「兄貴は邪魔しないで!」
「貴様、なぜ首と胴体が繋がっているのだ!」
とりあえず彰浩さんの発言は訂正したい。
僕は完全再生したのであって、切断された首と胴体が再接合したわけではないので。
「美弥、意地を張っていると殺されちゃうよ! 彰浩さんは美弥より強いんだからね!」
「っるさいわね! 兄貴はそこで、このあたしが覚醒するところを見てなさいよ!」
瞬間、彰浩さんが《加速》を発動。一時的に美弥の敏捷性を上回る。
そして美弥の腹部を《虚無刃》で裂いた。今回は裂いた事実を『先延ばし』にすることもなく。
「うわっ、最悪──」
お腹をおさえて尻餅をつく美弥。
僕は《自爆》してから、彰浩さんの背後に完全再生。
《地獄神》を突き出すが、躱される。
「姉さんの仇は、必ずや討たせてもらうぞ!」
それを捨て台詞にして、彰浩さんは逃走した。
なーんだ、行っちゃった。
「美弥、大丈夫?」
美弥はぴくりとも動かず、重々しい声で言う。
「まずいわ、兄貴。ちょっとでも動いたら、腹の裂け目から中身が出てきそう」
モンスター病院に運ぶにしても、応急手当が必要そうだ。
「待っててね、美弥」
邸内に戻る。
早苗さんは今も鼻歌と共に、熱心に働いている。萱野さんの左腕は5分割し終え、今は右足に入っていた。
解体作業中の早苗さんは、なんか可愛いなぁ。
おっと、見とれている場合じゃなかった。
僕は戸棚などをあさり、ついに目当てのものを見つける。
文明の利器・ホッチキスを!
美弥のもとに戻る。
「美弥、ホッチキスで裂け目を閉じよう」
「え、ホッチキスで? そんなことできるの?」
「美弥、ホッチキス万能説というものがあってね」
「そんなの初耳なんだけど」
「いま僕が作った説だからね」
「兄貴! 妹のハラワタが、ぶちまけられるかどうかの瀬戸際なのよ! もっと真面目にやりなさいよ!」
「ごめん、ごめん。じゃ、ちょっと手を離して」
美弥が少しだけ手をずらす。とたん腹部の裂け目が広がり、中身がチラッと見えた。確かに、今にも飛び出してきそうだ。
慎重に慎重に、裂け目をホッチキスで閉じていく。モンスター病院までもてばいいのだ。とりあえず打ち込めるだけ、打ち込んでいこう。
作業中、ズルリと中身の一部が顔を見せてきた。慌てて右手で腹腔内に押し込んでおく。
「兄貴、勝手に挿入するな!」
「いまの発言は、知らない人が聞いたら勘違いされるなぁ」
ようやく裂け目を閉じ終えた。
我ながら、いい仕事をしたよ。
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