7,右眼が両眼になっている。
工場付近から、脱出。
ところで萱野邸は都内ではなく、なかなかに遠い県にあるようだ。
「長旅だけどね、小梨くん頑張って」
ところが合流した小梨くんは言うわけだ。
「ふざけんじゃねぇ! んなところまで、てめぇらを運んで飛んで行けるか!」
そして小梨くん、なんと独りで飛んで行ってしまった。
まさかの職務放棄!
フロアボスとして僕はガッカリ──はしない。
時に部下が道を踏み外すこともあるでしょう。そういう時こそ、フロアボスとしての度量の広さが試されるのだ。
「とりあえず小梨くんの『生存期間ポイント』が100から3に減ったね」
「兄貴。『生存期間ポイント』ってなんなの?」
「これが0になると、処分決定」
「100から一気に減りすぎじゃない?」
「小梨くんには、まだポイントが3もある奇跡を噛みしめてほしい」
これが度量の広さ。
仕方ないので、萱野邸には電車で行くことにした。
2時間後、到着。
萱野邸は山間部にあって、広い私有地を電気フェンスが囲んでいた。『ジュラシック・パーク』のワンシーンをなんか思い出した。
美弥は大跳躍で、電気フェンスを飛び越す。
僕にはそんな芸当できないので、地道によじ登った。ひたすら感電しながら。普通の人がやっていたら、87回は感電死していたね。
私有地をしばらく進むと、大豪邸が見えてきた。規模だけなら守谷家より広そう。ヘリポートにヘリが置かれているので、都心との行き来も楽そう。
「早苗さん。ちょっと偵察に行ってきてくれる」
「え? うん分かった」
早苗さんが「よいしょ」と僕の影から出て、徒歩移動を始めた。
「こらこら、早苗さん、こらこら」
「え?」
「そんな散歩する人みたいに歩いていったら、すぐに気づかれちゃうよね? ただでさえ全裸なのに」
影に入るときは全裸じゃないと無理らしい。
「だって知樹くんが」
「〈影女〉なんだから、影の中を進んでよ。瞬時に影から影へ跳躍できれば、発見される危険性ほぼ0だよね」
「影から影へ瞬時に跳躍? そんなことできないけど?」
「会得して」
「え」
「『影から影へと瞬時に跳躍できる』スキルを、今すぐ会得して。覚醒して会得して」
「……」
早苗さんは何も言わず、近くの大樹まで歩いていく。そして頭を打ち付けだした。
「覚醒しろー! わたし、覚醒しろー!」
そんな早苗さんを見ながら、美弥がしみじみと言う。
「兄貴の嫁さん、不憫だわ」
200回ほど頭を打ちつけたころ、額からダラダラと血を流しながらも、早苗さん覚醒。
「来たよ、知樹くん! 新たなスキル《影跳躍》を会得したよ!」
これは影と影を瞬時に移動できるスキル。
ただし、移動できる影と影の距離は、32メートルまで。
さっそく早苗さんは影に飛び込み、《影跳躍》で進んでいった。僕と美弥は待機。
20分後、早苗さんが戻ってきた。
「邸内に入ってきたよ。萱野堅持を見つけたよ」
「ほかには誰かいた?」
「うん、いたいた。まずね、同年代のおじさんたちが6人。全員、最上級国民みたい。でね、変てこなパーティしていたよ」
「どんなパーティ?」
「美人さんのゾンビがたくさんいたんだけど。萱野堅持たちが、パーツを組み替えていた。つまりね、手足とか頭部とか乳房とかをバラして、別のところにくっ付けて遊んでいたよ」
「ははぁ。絵に描いたような変態パーティだね。ゾンビだからパーツを組み替えても、頭部さえ損壊しなければ死なないわけだ」
「兄貴、突撃する? 突撃する?」
待ちきれない美弥が、ぴょんぴょん跳ねる。
それを早苗さんが止める。
「まって。へたに飛び込むと危険かも。おじさんたち以外にも、もう一人いたんだけどね。警備担当の最上級国民みたい。かなり強そうだったよ」
美弥が嫌そうな顔をする。
「まさか、このまえ来た佐伯楓じゃないでしょうね?」
佐伯楓さんではないだろうなぁ。楓さんがいたら、いまごろ早苗さんはバラバラにされているだろうし。
やっぱり早苗さんは否定。
「違う、その人じゃない。その人ほどじゃないけど、ヤバそうな感じ」
美弥はいまだに《闇黒の爪》を使いこなせていない。切断しまくるだけの爪じゃないんだよ、《闇黒の爪》は。
葉島小夜さんみたいな敵だと、いまの美弥じゃ厳しいね。
「美弥と早苗さんは、ここで5分ほど待機していて。まずは僕が行って、ヤバそうだという人を片付けてくるから」
美弥は不満そうだったが、納得させた。
というわけで僕は単身、萱野邸へ。
玄関扉をノックする。
ゆっくりと扉が開き、20代前半の男が現れる。軍隊にでもいそうなタイプ。
《個人情報取得》を発動。
最上級国民ランク:??
本名:葉島彰浩
主な悪事:暗殺、謀殺。
得意なスキル:《虚無刃》。
「なんだ、貴様は?」
この人も葉島だ。ということは──
「小夜という妹さんいますか?」
「小夜は姉だ」
「先日、お姉さんとお手合わせした者です」
とたん葉島彰浩さんが激高。
「さては姉さんの両眼を抉りだしたのは、貴様かぁぁぁぁ!」
あれ、両眼?
美弥は右眼しか抉ってないんだけど。
ま、いっか。
「そうでーす!」
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