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5,やればできる子。

 


 早苗さんが壁に頭を打ち付けだした。半泣きで。


「覚醒ー! 覚醒しろ、わたしー! わたしならできる、できる子わたし!」


「……兄貴、なんか気の毒なんだけど?」


 美弥から同情を引き出すとは、さすが早苗さん。


「美弥。いまは心を鬼にするときだよ。グッと同情心をこらえ、さらに追い打ちをかける──

 早苗さん、ここで覚醒できないんじゃ、もう僕は君を捨てるしかないね。下水道にポイっだね」


 早苗さんの頭を打ち付ける速度が12倍になった。あと号泣。


「うわぁぁぁぁん! 知樹くんに捨てられちゃうよぉぉぉぉ! お願いだから覚醒してぇぇ!」


「……悔しいけど、認めるしかないわ。兄貴の鬼畜ぶりに、あたしはちょっと感動している」


 妹から尊敬の眼差し。

 兄冥利に尽きるというものだ。


 ふいに早苗さんの動きが止まった。


「あ、会得できたみたい。やった、知樹くん! わたし、やったよ!」


 大喜びの早苗さんが抱きついてきた。

 よしよしと背中を撫でてあげる。


「やればできると分かっていたよ、早苗さん。で、僕たちはどうしたらいい?」


「影に収納するゾンビたちを、一か所に集めてくれる?」


「了解。けど知性のないゾンビを集めるのは一苦労だね」


 ところが簡単だった。美弥という新鮮な肉に釣られて、向こうからゾロゾロ来てくれたので。


「美弥、モテ期だね」


「ぜんぜん嬉しくないわ。あ。こらっ、勝手にかじろうとするな!」


 齧りついてきたゾンビを蹴とばす美弥。


 早苗さんが両手を広げ、新たなるスキルを披露。


「《影保管(シャドウ・ストレージ)大容量(ラージ・カパシティー)》!」


 早苗さんを中心にして、一気に影が広がる。影に呑まれたゾンビたちが、水に沈むようにして消えていく。

 最後には、全てのゾンビが影に収納された。


「いまのところ影に収納できる個体は、134体までだよ」


「134体も自分の影に収納して、早苗さんは重くないの?」


「大丈夫。わたしの影ではなく、専用の影に収納したわけだから」


 なるほど。早苗さんが僕の影に入る場合とは、仕組みが違うわけだ。


「これで安心して、萱野かやの邸に向かえるね」


 ところがググっても、萱野邸の住所が出てこない。

 最上級国民がその気になれば、自宅住所をネット上から削除することなんて朝飯前。守谷家の場合、わざわざ隠す必要もないと公表されていただけで。


「誰か親切な人に聞くしかないね」


「兄貴。そんな都合よく、萱野の住所を知っている人と遭遇するわけがないでしょ」


 解体工場内の通路を歩いていたら、8歳くらいの女児とぶつかった。ほとんどの子供は避難したと思ったけど、まだ逃げ遅れがいたらしい。


「お嬢ちゃん、走ると危ないよ」


「う、うるさい! お前たち、アタシのパパが誰か分かってんのか! ここの一番偉い人とも友達なんだぞ!」


「一番偉い人って、萱野さんのことだね?」


 都合よく萱野の住所を知っている人と遭遇した。厳密には知っている人の娘さんだけど。


 僕は腰をかがめて、女児と目線の高さを同じにする。


「お嬢ちゃん。君のパパのもとに案内してくれる?」


「お前、ムカつくぞ!」


 女児がハンドガンを持ち上げて、僕の眉間を撃ち抜いた。

 なんか撃たれてばかりだなぁ。


 完全再生。気づくと、美弥が女児を蹴りまくっている。


「生意気なのよ、ガキんちょの分際で。顔面蹴るから、手をどけなさい。殺すわよ?」


 僕は早苗さんに小声で言った。


「美弥も、8歳のころはあんな感じだった」


「驚かないよ」


 顔面が痣だらけになった女児とともに、工場を出る。

 女児はといえば、ずっと虚脱状態。美弥から受けた不条理なボコボコは、永久に心の傷として残ることでしょう。気の毒にー。


 工場の外は、けっこうな騒ぎ。

 その中で、これから突入しようとしている冒険者パーティがいた。まだ工場内をゾンビが歩き回っていると思っているわけだ。

 実際は、早苗さんが影に収納したわけだけど。


 とにかく、この冒険者パーティにやたらと怒鳴っている男がいた。

 その男を、女児が指さして、


「パパ、あそこ」


 男の人もこちらに気づいた。娘の無事に気づき、駆け寄ってくる。


「おお、則子! 無事だったのか! パパは心配したぞ!」


 ところが則子ちゃんの顔面を見て、凍り付く。


「い、いいい、一体、誰にこんなことをされたんだぁぁぁ!」


 美弥が挙手して、


「あたし。というか、あんた。娘への躾けが出来てないわよ。あたしが代わりに躾けてあげたんだから、感謝してよね」


 則子パパさん、唖然として美弥を見る。

 それから怒りがふつふつと湧き上がってきたらしい。


「貴様がぁあ、則子ぉぉ! タダで済むと思うなよぉぉ! 貴様だけでなく、貴様の家族も親戚も地獄に叩き落としてやるからなぁぁぁ! この国で生きていけなくしてやるぅぅぅ!」


 このとき則子パパの顔は、怒りで真っ赤だった。

 ところが、瞬時に真っ青になる。


 僕が《地獄神ヘル・ゴッド》のドリルビットを、則子ちゃんの頭頂部に押し付けたので。

 ただしスイッチは入れていない。これはただの脅しですとも。


 僕は愛想よく笑って、


「萱野さんの自宅住所を教えてくださいね」



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