3,モンスターの部下ができた。
いま殺した冒険者のことは、001とナンバリングした。
よって冒険者100を仕留めたとき、晴れて借金完済というわけ。
その日まで、僕は働くぞー。
ただ第1階層に、僕以外のモンスターがいないのは気になる。
オリ子に問い合わせよう。
オリ子への連絡手段を探していたら、先ほどの女性を見つけた。冒険者001に襲われていた人。
年齢は20代前半。端麗な顔立ちの人だ。切れ長の目が大人っぽい。
彼女も僕に気づいた。
「あの、先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
モンスターに転職した身としては、別にこの人を助けたわけじゃないんだけどね。
「さっきは大変でしたね」
「……私、あの人を信じていたんです。けど結局、わたしは遊ばれていただけだったのですね」
「ですねぇ」
「あ、すいません。申し遅れました。わたし、潮崎佳奈といいます」
「そうですか。失礼ながら、僕は冒険者にしか名乗りませんので──あ」
遠くのほうに電話ボックスがある。いまどき珍しい。そもそもダンジョンにあるものなのか。
さては、あれがオリ子への連絡手段だな。
電話ボックスに向かうと、なぜか潮崎さんも付いてきた。
ボックスに入り、受話器を取る。とたん呼び出し音が鳴り、オリ子が出た。
「さっそく冒険者を殺したようだな。さすがだぞ、〈イコライザー〉。わらわが見込んだ、10万年に1体の逸材だけはある」
「どうもです。それで500万円のことですけど、税金を引いた上での手取りボーナスとしてお願いしますよ」
「ちゃっかりしておるな」
「あとオリ子さん、相談というかクレームなんですけど。第1階層のモンスターが僕以外いないのは、なぜなんです?」
「第1階層は死亡率が高いものだから、超絶な不人気階層なのだ。よって別の階層のモンスターが異動したがらなくてな。わらわも無理強いできんのだ。優しい管理者で通っておるからな」
「優しい管理者さん、僕はフロアボスとしてモンスターの部下が欲しいです」
「ええい、ならば自分で探してきたらどうだ?」
うわぁ。部下に丸投げする上司だぁ。
「それにお主には、《殺しようがない》以外にもう一つ、便利なスキルがあるではないか。回数制限つきだがな」
《殺しようがない》以外に便利なスキル?
なんのことだろう。
受話器を置いてボックスから出る。まだ潮崎さんがそこにいた。
「帰っていいですよ、潮崎さん。冒険者ではないあなたは、モンスターの敵ではないので」
「あの、本当にありがとうございましたっ!」
「はい」
潮崎さんが去ったところで、僕は第2階層へ行くことにした。仕方ないので、モンスターをスカウトしてくるのだ。
ところが──迷った。
迷路構造なんだから、案内標識くらい置いてくれればいいのに。あれ、それって矛盾?
3時間ほどさ迷っていると、人が倒れているのを発見した。
歩み寄ってみると、それが変わり果てた潮崎さんだと判明。
裸に剥かれ、乱暴されたあとだ。しかも、どうやら扼殺されたらしい。
僕と別れたあとに、また誰かに襲われたのか。モンスターでないことは確か。
ということは──いま第1階層には、新たな冒険者がいるということだ。
とにかく潮崎さんは、気の毒な人だったなぁ。
見開かれたままの目を閉じてあげようと、手を伸ばした。
瞬間、視界にメッセージ画面が広がる。
『この人間を《種族チェンジ》しますか? 使用可能回数は、残り3回です』
なるほど。これがもう一つのスキルかぁ。
オリ子の《種族チェンジ》を、3回だけとはいえ使えるとは。
しかし、すでに死んだ人間を《種族チェンジ》しても、それは死んだモンスターなのでは?
使ってみようか。
《種族チェンジ》を発動。
潮崎さんの目玉がぎょろりと動く。生き返った? しかしモンスターにしたからといって、死者が蘇るとは思えない。ちなみに僕の場合、消し飛ばされても死んでないので──それが《殺しようがない》
あ、そうか。例外がひとつあった。
「おめでとう、潮崎さん。あなたはアンデッドとして、新たな生を得ました」
潮崎さんはキョトンとした顔だ。まだ状況を理解できていないらしい。そのうち腐敗しだしたら、嫌でも気づきそうだ。
あとで腐敗防止の方法をオリ子に聞こう。
「潮崎さん。また冒険者に襲われたんですね?」
潮崎さんが絶望した様子でうなずく。
潮崎さんは美人だ。
そしてモンスターを狩りに来ている冒険者は、娯楽に飢えて興奮している。ようは理性とは無縁。
潮崎さんを見つけたら、欲望のまま襲ってもおかしくない連中だ。
「3人の冒険者に──抵抗などできず──わたし、悔しいです」
「え、新たな冒険者が3人も?」
その3人を仕留めれば、さっきのと合わせて2000万円も稼いでしまう。
たった一日で。
なんて素晴らしい職場なんだろう。
「潮崎さん、行きましょう」
「行くって、どこにです?」
「僕たちモンスターの仕事ですよ。冒険者たちを殺して殺して、殺すんです」
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