4,素敵な阿鼻叫喚。
通路を進み、鎖につながれたゾンビを見つけるたびに尋ねる。
「すいませんが、うちのカナさん知りませんか? 若い女性で、いつも虐げられてそうな感じの方です。実際、ひどい目ばかりにあってます」
たいていのゾンビというのは、もう知性を失ってしまっているらしい。
僕の首あたりに噛みついて、人肉を齧り取ってばかりなので。いや、『人肉』ではなく『モンスター肉』か。
「美味しいですか? いま鎖を外してあげますよ」
出会ったゾンビの鎖は、片っ端から解除。通常のやり方では破壊できない白魔法製の鎖でも、《地獄神》なら問題なし。
そうやって自由になったゾンビたちは、好きに通路を進んでいく。
今もサラリーマン風ゾンビを自由にしてあげた。
そこに2人の子供が曲がり角から駆けてくる。双方とも13歳くらいで、ハンドガンを振り回すようにして、
「ゾンビどもをぶっ殺だぜ~!」
「黄緑色の脳味噌をぶちまけさせてやるぜ~!」
とたん自由になったサラリーマン風ゾンビと遭遇。
2人とも凍り付く。
「な、なななな、なんでコイツ、自由に動けてんだよぉぉぉ!」
「し、知るかよぉぉぉ! そんなこと知るかよぉぉぉ! とにかく殺せぇぇぇよぉぉぉぉ!」
2人の子供たちが、懸命にハンドガンを撃ちまくる。
しかし訓練もまともに受けていないだろう銃撃だ。標的のゾンビが鎖に繋がれてるのならともかく、自由に動けているのではねぇ。
何たって、ちゃんとヘッドショットしないと死なないのだから、ゾンビは。
というわけで、片方の子供が捕まり、ガブリとやられた。
サラリーマン風ゾンビさん、新鮮な人肉をムシャムシャ。
もう一方の子供が悲鳴を上げながら、なぜか壁に走っていき激突。
あまりの恐怖に、逃げる方向さえ間違えたらしい。
激突のショックで気絶した子供。
すると別の通路から、ナースのゾンビが歩いてきた。僕は自由にした覚えがないので、美弥の仕事だね。
ナース・ゾンビさんは、気絶中の子供に屈みこんで、こちらもムシャムシャやりだした。
耳をすます。
そこら中から、子供たちの悲鳴が聞こえてくるぞ。
うーむ。素敵な阿鼻叫喚になってきたらしい。
しかし、肝心のカナさんはどこだろう?
もう殺されてしまい、焼却炉にでも放り込まれてしまったのだろうか。
さらに先へ進み、今度はホスト風のゾンビを見かけた。
「鎖を外してあげますよ~」
「おお、すまねぇな坊主」
「あ、まだ知性があるんですね? うちのカナさん見ませんでした? 若い女性で、いつも虐げられてそうな感じの方です。実際、ひどい目ばかりにあってます」
「そのカナってのは、まだ綺麗なのか? つまりよ、もともと器量がいい上に、肉が腐ったりもしてねぇのか?」
「カナさんは美人だし、腐乱してもいないですよ。腐敗防止スキルも身につけましたし」
「あーそりゃあ、ビッグ・パパが連れていっちまったかもなぁ」
「ビッグ・パパですか? どちらさん?」
「このゾンビ解体工場を運営している奴さ。新しいゾンビが入るたび、『私は皆さんの新しい父親と思ってください』なんてほざくから、ビッグ・パパって呼ばれてんのさ」
「あ、知ってますよ。萱野堅持さんですね。どうして萱野さんが、カナさんを連れていくんです?」
「まぁ俺もよくは知らねぇが、噂によると容姿のいいゾンビだけは、萱野の自邸行きになるんだとよ。最上級国民は総じて悪趣味だからな。そこで何が繰り広げられるかは、想像したくねぇぜ」
「なるほど。さすがカナさん、ひどい目にあうコースをひたすら進んでいる。ある意味、才能だね」
自由になったホスト・ゾンビさんが嬉々として駆けていく。
君は走れるゾンビなんだね。
「やっとご馳走にあずかれるぜぇぇえ! 若い娘の肉ぅぅぅう!」
ホスト・ゾンビさんが目を付けたのは、いま通路を歩いてきた女子中学生。
とても可憐な少女で、ネコ耳を生やしている。
「あ、ホスト・ゾンビさん、その子は──」
美弥は小首を傾げて、向かってくるホスト・ゾンビを見返す。
それから《闇黒の爪》を一閃させ、首を刎ねた。
「キモいのよ、ロリコン」
「あーぁ、ホスト・ゾンビさん」
いくら知性があっても、人間とモンスターの区別がつかないようじゃお終いだね。
「兄貴。あらかたゾンビたちは解放したけど、このあとどうするの?」
「萱野さんの邸宅に行くよ。カナさんはそっちにいるらしいから」
僕の影から早苗さんが顔を出す。
「まってよ、知樹くん。それだと無責任だよ。解放したゾンビさんたち、このままじゃ運営が送り込んでくる冒険者たちに殺されちゃうよ」
確かに。自由になったゾンビを、解体工場の運営会社が放っておくはずがない。
ここのゾンビたちだと、Eランク冒険者のパーティでも簡単に駆逐されそう。
「じゃ、まずはゾンビたちを【無限ダンジョン】に連れて行くとしようか」
「えー。兄貴、本気なの? 足の鈍いゾンビが、しかも百体近くいるのよ。それを全部、【無限ダンジョン】まで連れて行くわけ? さすがに目立ちすぎでしょ」
「大丈夫。全部、影に収納して運ぶから。ね、早苗さん?」
早苗さんがびっくりする。
「え、わたし? あの知樹くん……わたし、そんなスキル持ってないんだけど」
「会得して」
「え?」
「いますぐ、『100体のゾンビを影に収納する』スキルを会得して」
「あの、どうやって……?」
「覚醒することで」
「……」
早苗さん、いまにも泣きそう。
しかしフロアボスとは、時には心を鬼にしなければならないのだ。
「さぁ、早苗さん。早く覚醒して」
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