1,変なのが来た。
──佐伯楓の視点──
髪の真っ白な女が、テーブルに腰かけている。
髪の色を抜かせば、アイドルでもやれそうなくらいの若々しい美女。
それもそのはずで、まだ21歳。
【無限ダンジョン】の第4274階層まで降りて帰ってきたら、髪が真っ白になっていたのだ。
ちなみに第4274階層とは、人類の最高記録である。
その女──名を佐伯楓は、目の前の死体を眺めていた。
守谷卓の死体を。
「やぁ老害、やっと死んでくれたようでボクは嬉しいよ」
死体の、頭頂部の穴に小指をねじ込む。
「面白い殺されかただねぇ」
それから場所を移動し、入院中の葉島小夜に面会。
葉島は全身の複数か所に穴をあけられた上、右眼を抉り取られていた。
「葉島ちゃんがいながら、守谷家全滅とはねぇ」
「申し訳ございません。私の不徳の致すところで──」
楓は片手を振って、遮る。
「いいから、いいから。そんなことよりさ、守谷家を潰してくれた子のことを話してよ。守谷卓の防御魔法を、電動ドリルが簡単に突き刺したんだって?」
「はい。旦那様の《守護神》は鉄壁だったはずなのに──」
「しかも、葉島ちゃんの《虚無球》で消しまくったのに、そのたびに完全再生したって?」
「はい」
「挙句に、守谷ぼっちゃんの召喚獣が攻撃を拒否したって?」
「はい」
「ふ~ん。でさ、どうなの? もう一度会ったら、その電動ドリルの子を殺せそう?」
葉島小夜が、まっすぐな瞳で見てくる。残った左目で。
「私の命に代えてでも、殺します」
「そっか」
楓は笑顔を浮かべて、葉島の肩をポンと叩いた。
ポンポンと。
それから左眼を抉り取った。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「へぇ。眼球を抉るのって、けっこう愉しいんだねぇ」
握りつぶしてから、洗面台で手を洗う。
「ヤバいよねぇ。殺しても死なない上に、どんな防御も突破する武器まで持ってるとか。しかもさぁ、そいつ絶対に異常者だよ。だってボクと同じ匂いがするもんねえ。このままじゃ最上級国民が全員、狩られかねないよ~」
タオルで手を拭きながら、楓は病室のテレビを眺めた。
お昼のニュース番組。
《ユメミテファイナンス》とかいう闇金融の社員が、皆殺しにされたらしい。
「わぉ。ヤミ金を潰すとか、正義の味方じゃん。リスペクトきた」
★★★
──主人公の視点──
ふと気づく。
僕はフロアボスとして、部下のモンスターたちをマネジメントする立場なのでは、と。
ところでマネジメントって、なんだろ?
そこで近所の古本屋に行き、【もし高〇野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら】という本を購入。
税込み110円というお手頃な価格で。
さっそく読んでみた。
ふむふむ、なるほど。
この本が伝えたいことを要約すると、『役に立たないモンスターは殺してハンバーガーの具材にするべし』ということだね。
それこそがマネジメント。
僕の解釈は間違ってないはず。
というわけで翌日、みんなを集める。
さっそく僕は、新たな方針を発表した。
「今週中に冒険者を一人も狩れなかったモンスターは、ハンバーガーの具材にします。つまり、ミンチですね」
アンデッドのカナさんが弱々しく挙手して、
「あの、それは私もですか?」
「カナさんは好きだけど、特別扱いはしないよ。フロアボスとして、ビシバシといくからね」
しかし、カナさんのために半殺しの冒険者を用意してあげよう。こっそりと。
ときに部下を贔屓にするのも、フロアボスの仕事だ。
そんなことを話していたら、コンビニの入店音がした。
さっそく冒険者が来たらしい。
「じゃ、まずは僕が《個人情報取得》でランクを見てくるから。みんなはここで待っていて」
入口まで行くと、白い髪の女の人がいた。
《個人情報取得》を発動。
最上級国民ランク:計測不能。
本名:佐伯楓 女 21歳。
主な悪事:大量虐殺、拷問殺人、無差別殺人、その他。
得意な魔法・スキル:???
うーん。変なのが来た。
「どうも、第1階層フロアボスのイコライザーです」
すると楓さんが僕の手を握って、熱心に振ってきた。
「やぁやぁ。キミだよね、『ユメミテファイナンス』皆殺しの犯人は? 守谷卓と殺害方法が同じと聞いて、ピンときたよ。ちなみにキミの居場所は、葉島ちゃんから聞いたよ~」
「ああ、葉島小夜さん。元気にしてます?」
「ん~。まぁね。とにかくさ、ボクはこれだけ伝えたかったんだよ。キミのことは応援しているよってね。これからもじゃんじゃん、Sランクを殺してくれたまえ」
「お姉さんは、Sランクではないんですか?」
「ボク? ボクはね、Sランクが間引きされたらいいなって思っている善良な市民」
「ふーん。そのうち、お姉さんも殺してあげますよ」
「おっけー、おっけー。その時は、ボクがキミを殺してあげるからね~」
「ははぁ。面白いことを言いますね」
「キミこそ、愉快だねぇ」
楓さんが帰ったので、みんなのところに戻る。
様子をうかがっていた美弥が、珍しく怯えた様子で言う。
「兄貴。さっきのあの女、なんだったの? あれで人間なの? あの女がいる間ずっと、寒気がしていたんだけど」
「うん、ほんと変な人だったよね」
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