2,「な、なんなんだ、コイツはぁぁぁぁ! なんで死なねぇんだぁぁぁぁぁ!」と言われると、地味に嬉しい。
さっそく第1階層へ転送された。
ところが、だ。モンスターたちが沢山いると思ったのに、誰もいない。墓場のように静かだ。寂しい。
と思っていたら、何やらヒト声が聞こえてきた。
やった! 誰かいるぞ!
心弾んで駆けて行くと、男と女がいた。
女性のほうは服を剥かれ、男はその上から伸しかかっている。
う~ん。僕が求めていた感じではないなぁ。
男は冒険者で、庶民の女性を【無限ダンジョン】に連れ込んできたようだ。つまり、僕の職場で犯罪行為を働こうとしているのか。
なんて奴だ。
とはいえ、ここはバイトで培ってきた自制心を発揮する。
「あの~。そういうことはダンジョンの外でやってください。ダンジョンは女の子を連れ込んで凌辱するところではないですよ。TPOを守ってくださいよ」
冒険者が女を突き飛ばし、僕を見やった。
「なんだてめぇは?」
さっそく自己紹介するときが来たのか。
深呼吸する。ここが僕のデビュー戦で──
胸部に、突かれたような感触。
見てみると、ポッカリ穴があいていた。ええ?
冒険者は右手を突き出していた。その掌から〈火弾〉が発射されたようだ。で、僕の胸部に直撃したと。
それを見た女性が悲鳴を上げる。
冒険者のほうは笑い出した。
「ばーか。てめぇなんて知ったことかよ。どうせダンジョン内での殺しは、法的にノーカンなんだからな」
まてよ。すると僕をモンスターではなく、『人間』と思っているのか。それなのに火弾を撃ち込むとは。
「この……人殺し……」
僕は無念という感じで倒れた。
で、起き上がる。
また女性に襲いかかろうとしていた冒険者が、ギョッとして見てきた。
「てめぇ、なんで生きてやがる? おい、俺があけた穴はどうした?」
胸部の穴はすでに再生済み。
「あのさ。僕の名乗りを聞いてよ。これがフロアボスの初体験なんだから。こほん」
「フロアボスだとぉぉ? てめぇ、どう考えても人間だろうが」
「まぁ5分前までは人間だったんだけどさ。ところで、ひとつだけいいですか?」
僕は冒険者に歩み寄った。
背の高い冒険者が見下ろしてくる。まるでゴミでも見るように。
「なんだ? わざわざ殴り殺されに来たのかよ?」
「ちょっと失敬」
背中に隠していた電動ドリル、もとい《地獄神》を出して。
冒険者の右太腿にドリルビットを押し付け、スイッチを押した。
ぐぉぉぉお。
ドリルビットが肉をぐんぐん貫いていく。
「ぐぁぁぁぁぁああああ!」
僕はいったん《地獄神》を離した。
おお、いい感じに太腿に穴があいている。さっそく血が噴き出しているぞ。
「申し遅れたけど、僕の名は〈イコライザー〉」
「このクソがぁぁぁぁ! マジで死ねぇぇぇ!」
冒険者の右手に炎による爪が出現。炎のくせに切れ味が抜群なのは、魔法だからだね。
とにかく冒険者が右手を数閃する。
とたん僕の体は切り裂かれ、さらに炎にまとわりつかれて火だるまに。
うーむ。痛覚死んだのかな? とくに痛くないし、熱くもない。
ただ冒険者がやたらと勝ち誇っているのが聞こえてきた。
「ざまぁぁぁぁみやがれぇぇぇ! 俺様に手を出すから、こうなるんだぁぁ! いいか、てめぇの身許を突き止めて、てめぇの家族も酷い目にあわせてやっからなぁ! ひゃひゃひゃひゃ!」
炎が消えた。
すでに僕は完全再生してある。
冒険者があんぐり口を開けた。
「な、な、な、なんで、だぁぁぁ!」
「繰り返すけど、僕の名は〈イコライザー〉。冒険者に地獄を見せます」
「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇ!」
パニックになった冒険者が、〈火弾〉を連発してくる。
僕の体は破壊され、しかしすぐに再生。飽きるよね。
「な、なんなんだ、コイツはぁぁぁぁ! なんで死なねぇんだぁぁぁぁぁ!」
ついに冒険者は逃げ出した。通常なら、その敏捷性にはついて行けない。
しかし今の冒険者は、右太腿を負傷している。その足を引きずりながら、走っているのだ。
当然、追いかける。
とはいえ、相手はやはり冒険者。片足を負傷しながらも、速い。引き離されないのがやっとだ。これは持久戦だね。
体力には自信がある。肉体労働バイトで鍛えられたので。
「えっほ、えっほ、えっほ、えっほ」
一定のペースで走って、冒険者を追いかける。
「く、来るなぁぁあああぁぁ! 助けてぇぇ、誰か、誰か助けてぇぇぇ! 化け物に、化け物に追われているんだぁぁぁぁぁ!!」
「えっほ、えっほ、えっほ、えっほ」
焦らず走る。追いつきそうだからといって、ペースを上げたりはしない。無心に走る。
「やだぁぁぁ! こんなの誰か、助っ!」
ついに冒険者が蹴躓き、倒れる。
さすがにここはペースを上げていいだろう。
「えっほえっほえっほえっほ」
「こ、来ないでぇぇぇ!」
「えっほえっほえっほえっほ」
「お、お願いじまずぅぅ! こ、殺ざないでぐだざいぃいぃぃぃぃ!」
「いえ、これも仕事なので」
仕事は責任をもって完遂しないとね。
というわけで、冒険者の頭頂部に《地獄神》のドリルビットを当てて。
スイッチオン。
ぐぉぉぉぉぉ。
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああ!」
ぐぉぉぉぉぉ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
ぐぉぉぉぉぉ。
「ァぁあぁぁあァぁぁあぁぁぁぁ!!!……………」
冒険者は激しく痙攣していたけど、ついに止まった。
ふむ。
ただの屍のようだ。
僕は両拳を突き上げた。
「やったぞ、美弥! お兄ちゃんは、初仕事をやってのけた!」
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