5,拷問すると心が清らかになるのよ、と女子中学生は言いました。
~主人公の視点~
早苗さんが心配した様子で言う。
「知樹くん。美弥ちゃんを置き去りにしちゃったなんて──引き返して助けにいかないと」
僕は腕組みして、ふーむと感じ取った。
「まった。お兄ちゃんアンテナが言うには──」
「兄妹って、そんなアンテナがあるものなの?」
「いまこのとき、美弥は生き生きと誰かを拷問している。だから、とくに助けにいかなくていいような気がするなぁ」
~美弥の視点~
つい先日、美弥は《闇黒の爪》の新たなバージョンを入手していた。
そこには33の機能があり、《空間短縮》もそのひとつ。
ようは空間を飛び越えて、《闇黒の爪》の一撃を食らわすことができる。ただし飛び越えられる距離は、5メートルまで。長距離攻撃できないのは残念。
とにかく《空間短縮》で、逃走に入った聖羅の手足の腱を切断した。
おかげで聖羅が無様にこける。
「ふむ。あんた、拷問特化スキルなんか持っちゃったせいで、戦闘力はフロアボスにもなれないレベルね。神子島とかいうのは、自分の戦闘力が高いせいで、まともに戦える部下を必要としていなかったんじゃないの」
聖羅が必死になって這っていく。そんな聖羅の背中を、美弥は踏んづけた。それから蹴とばして、仰向けにする。
「まったく、なに逃げようとしているのよ。こんどはあたしのターンだと言ったでしょ」
涙と鼻水を垂らしながら、聖羅が懇願してきた。
「ま、まって美弥ちゃん。許して。神子島様には逆らえなかっただけで、好きで拷問していたわけじゃないんだからっ!」
「ふむ、ふむ。あたしは、実は心が清らかで優しいのよ。『ごめんなさい』と謝ってくれたら、拷問なんてしないでいてあげるわ。生きとし生きるもの全てに感謝を」
希望の光が見えてきたので、聖羅の顔も少し明るくなる。
「ご、ごめんなさい」
美弥は繊細な左手の小指で、聖羅の右眼を抉り出した。毎度、視神経というのは長いものねぇ、と感心するのである。
「きゃぁぁぁあ痛い痛い痛いひとさまの右眼を抉るなぁぁあ!!ってか、謝ったら許してくれるんじゃないのぉぉぉぉ!!??」
美弥、平手打ち。
「心がね、心がこもってないの。心がこもっていたら、あたしだってこんなことはしないの。あのね、聖羅さんだっけ? まさかあなた、あたしが拷問してHAPPYになる、そんな頭ビョーキな猫娘だと思っているの? そんな女子中学生だと思っているの?」
こくこくと聖羅がうなずくので、美弥は左耳を千切り取ってやった。
「やめてやめてやめてやめて、顔が、美しい顔の形が壊れるから、もうやめて」
「なんでそこで肯定するの。あたしが拷問好きのネジが外れたJCって、なんで肯定しちゃうの。そこは否定するところでしょ。『美弥ちゃんはイカレていません正常ですって』。そこは言うところでしょ」
「だって、あんたはぜったい、聖羅より頭おかしいしぃぃぃい!!」
美弥がブチ切れたのは、聖羅の発言内容にではなかった。
聖羅が自分のことを『聖羅』と言ったからである。美弥は、自分のことを『自分の名前』でいう輩が、無性に許せないのだった。
「はい、無口にな~れ!」
聖羅の口を開かせ、舌をつまむ。ここで美弥は、舌を引きちぎるつもりだった。ところが聖羅の舌は、意味なく頑丈だった。なんだか知らないが、千切れそうで千切れない。
「舌舌舌舌ぁぁぁ舌ぁぁぁあ!!!!!!!!!」
と絶叫する聖羅。
しかし美弥としても、ここは汗を流しながら、聖羅の舌を引っ張っているわけである。最後は諦めて、《闇黒の爪》を一閃。下あごをまるごと切断した。それから、爪で舌を切断すれば良かったのに、と素朴に思う美弥だった。
「あぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁ!!!」
下あごを切断されても、人は叫べるものらしい。
「こうしてアホを拷問殺人すると、心が清らかになるわ。だから、あたしの心はいつまでも清らか、それは青空のごとく。ちょっと、あんた五月蠅い」
聖羅の首をチョンパしてから、美弥は行動を開始した。
神子島と佐伯楓の組み合わせは、強力すぎる。いくら兄貴でも辛いだろう。なんとか突破口を見つけてあげよう。
(なんて、あたしはできた妹なのかしら。きっと『素晴らしい妹を決める世界大会』とかあったら、優勝間違いなしね)
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