1,懐かしい人に会っても、喜んではいけない。
「ところで、この【原初ダンジョン】、村人が住んでいましたよ。オリ子さんたちと関係ありですか?」
あまり聞かれたくない質問だったらしい。オリ子は無視したので。
「ふむ。そんなことより、イコよ。これを授けよう」
オリ子が差し出してきたのは、可愛いウサギ──のような小動物。
「なんですか、この可愛い生き物は」
「これが次元蟲じゃ」
こんなウサギ的な可愛い生き物を『蟲』呼ばわりとは。
「そしてイコよ。【無限ダンジョン】への扉も開いてやろう」
「なんだか、大盤振る舞いですね。オリ子さんらしくない」
率直に言って、怪しいぞ。
僕の疑念もオリ子はスルーして、妙に真剣な様子で言うのだ。
「お主は、わらわのお気に入りのイコライザーじゃ。容易く敗北するのではないぞ」
うーむ。重たい言葉だ。1212兆4680億円も借金していなかったら、もっと良かった。
「努力しますよ、オリ子さん」
カナさん生首を抱えたまま、オリ子が出してくれた扉で、【無限ダンジョン】に戻る。次元蟲もゲットしたし、とりあえず目的は果たせたようだ。
「オリ子さんは来ないんですか?」
と振り返ったときには、【原初ダンジョン】へと続く扉は消えていた。
ふむ。オリ子は、何か隠しているようだぞ。
「とにかく久しぶりの我が家だね、カナさん」
すでに【無限ダンジョン】こそが、我が家のようなものです(と言いつつ、新しいMYダンジョンを作ろうとしているわけだけど)。
「我が家ですね、知樹さん」
我が家では、モンスターの死体がゴロゴロと転がっていた。死屍累々の阿鼻叫喚。ここは最下層付近なのに、この惨状。よほどの強力な冒険者が侵略してきたらしい。
「僕たちが【原初ダンジョン】で冒険している間に、こっちでは新手の襲撃があったみたいだね」
「そのようですね──あっ、わたしの身体が!」
カナさんの身体が歩いてきた。小脇にかかえていたカナさんの頭部を渡すと、胴体に装着(死体用ボンドで)。
「最下層に降りてみよう」
エレベーターで降り、通路を進むと──そこには美弥が倒れていた。手足は切断されており、だるま状態。
「美弥、どうしたんだ。手足切断祭の被害にあうなんて」
美弥はうつろな目で僕を見て、
「……兄貴……あいつが戻った……」
「誰が戻ったって?」
「やぁイコ君、現世では久しぶり」
という声がしたので顔を上げてみたら、白い髪の美人さんが立っていた。
「楓さん、お久しぶりですね! けど死んだ人が、そう簡単に蘇ってもらっちゃ困るなぁ」
楓さんも困った様子。
「ボクだって蘇りたくはなかったんだけどね。最上級国民として、これからの未来を憂いている輩に、強制的に蘇らされてしまったわけで。ボクも被害者なんだよ、イコ君。そこのところ、よろしく」
で、楓さんが非難がましく視線を向けた先には、神子島尊さんがいた。
おお。
「どうも、神子島さん」
「どうもー、南波くん」
ここで楓さんが挙手して、
「あ、イコくんの妹ちゃんを刻んだのは、ボクね。久しぶりの生身だから、なまってないことを確認したかったんだよね」
えー。すると僕は、また楓さんを殺すの? 一度殺すのでも、あんなに大変だったのに?
「知樹さん、後ろから何かが来ます」
カナさんに突かれて振り向くと、後ろから新手の女児が歩いてくるところだった。くすんだピンク色の髪。両手にはグローブ。
「もしかして、【乱打の王】のラン子さん?」
ラン子さん、ニッと笑った。
「正解っす!」
軽く右手でジャブ。
瞬間、カナさんが跡形もなく吹き飛んだ。
おい、僕のゾンビ娘になんてことしてくれる。