6,〖タミ子を33秒停止する〗権利。
こんどは一人で、デス子さんのところに戻る。徒歩です。
「ほう。わざわざ細切れにされにきたか。その度胸だけは買ってやるぜ」
僕は《地獄神》を召喚しつつも、フェアプレイ精神で言った。
「実はですね、さっきオリ子さんと会いまして。そこでデス子さんの弱点を教わったわけですよ。ですから、楽勝で僕が勝っちゃうかと」
とたん顔をしかめるデス子さん。
「なにぃ? オリ子のやろー、こっちに来てやがるのか。【原初ダンジョン】不可侵の条約をどいつも破りやがって。しかしそれはそれとして──」
デス子さんは僕をじっくりと眺めてから、にこっとした。
「見逃してもらいたいんで、取引しようじゃねぇか」
「取引ですか。しかしですね、僕はわが友オリ子さんを裏切ることはできませんよ」
「まてまて、タダとは言わんよ。取引だからな。こっちは見逃してもらうかわりに、債権をくれてやる」
「債権? オリ子さんに貸したお金についての?」
「違ぇよ。オリ子に対してではなく、タミ子に対しての債権だ」
タミ子さんというと、【終了の王】のことか。あれ、いまも火星にいるんだっけ? いや確か、地球に戻ってきたという話を、誰かから聞いたような。
「とんでもなく重大なものだぜ。これが有ると無いとで、今後のオメーさんの生存率が変わってくるぜ6代目イコライザーさんよ」
「ふむ、ふむ。その債権の内容とやらを、確認しても?」
「もちだ。あれは昔々のこと──まだわしら【原初の神】たちが仲良かったころのことじゃ。わしらは仲良くポーカーをしていた」
女児7人がポーカーしている図を、頭で描いてみた。うーむ。
「ここからが本題だが。あるとき、タミ子の奴は、とんでもなくいい手がきたわけだな。ほかの奴らは勝負から降りて、わしと一対一の勝負。
タミ子はオールインした上に、自分の魂まで賭けてきやがった。
結果、わしの勝ちよ。タミ子はストレート・フラッシュで仕留める気だったようだが、あいにくだったな、わしの役はロイヤルストレートフラッシュだったのさ」
「はぁ。よかったですね」
「ところが取り立てるさい、タミ子のヤローは、魂を差し出すのを渋ってきやがった。結局、心の広いわしは、ある債権を受け取ることで許してやったわけだ」
「はぁ」
「その債権こそが、これだ」
デス子さんが指をならすと、巻物が出現した。これが債権を具現化したものらしい。
「〖タミ子を33秒停止する〗権利のことよ」
僕は巻物を受け取ってから、かさばるなぁと思った。とたん巻物が消滅。どうやら持ち主の好きに出したり消したりできるらしい。
「はぁ。つまり、これを使えば、タミ子さんを33秒間停止させられるわけですか」
「使いどきを間違えねぇことだ。わしだったら、タミ子が《全行程の終了》
を発動したときに使うね。
逆にいえば、いくらオメーさんが不死身だろうとも、この債権がなけりゃあ、《全行程の終了》が発動された時点でお終いってわけだ」
「なるほど……」
「じゃ取引成立だな。わしは行くぜ。オリ子に、ちかぢか取りたてにいくからな、と伝えておきやがれよ!」
「あれ。どこに行くんですか、デス子さん?」
「当然、土星に決まっているだろーが!! 最終決戦の地だからな!!」
うーむ。なんのことかさっぱりだが、これから土星に行くとは元気なことだ。
「いってらっしゃい」
デス子さんを見送ってから、オリ子のところに戻る。
オリ子はワクワクした様子で言ってきた。
「デス子は仕留めたのじゃろ?」
「いえ取引して逃がしました。デス子さんから伝言です。『貸したカネは返せよ』です」
オリ子は拳を振り上げて、なにやら喚き出した。
タミ子に対する債権をゲットしたことは、黙っておこう。
「ところで、いくら借金しているんです?」
「ちょうど日本の借金と同じくらいじゃな。1212兆4680億円じゃ」
どうやったら、そんなに借金できるんだろうオリ子。