5,尊敬!
デス子さんは追跡してこなかったので、逃走は容易だった。
「さてと、カナさん。僕が気絶している間に、何があったのかな?」
「知樹さんが気絶されたあと、あの方が来られまして」
あの方というのは、牡牛ゴキで移動した先で待っていた。
ひとりの女児が。ゴスロリ衣装を着て、飴色の髪がふわふわしている女児。
≪原初の王≫のオリ子ではないですか。
「あ、オリ子さん。お久しぶりです。こんなところで、奇遇ですね」
「奇遇ではない。お主を追ってきたのだ。サニ子から聞いたぞ。新たなダンジョンを開くとか何とか」
「え? 別に仲間外れにしたわけではないですよ」
オリ子、両手をつきあげ怒りのポーズ。
「仲間外れとかで怒ってきたのではない! そんなことよりお主、リプ子の奴がじゃな。しびれを切らし始めているのじゃ」
「リプ子?」
「【繰り返しの王】のリプ子じゃ。
ところでお主。この世界線が、リプ子の力によって繰り返されていることは知っているじゃろうな? そのたびに新たなイコライザーが選ばれていることも。ちなみに神子島尊は初代イコライザーだった男じゃ」
「そういうトンでもない話は、初耳なんですけど」
オリ子、地団駄をふむ。
「小出し小出しに知らせてきたじゃろ。しかし、わらわも気が短い」
「足も短い」
「そう足も短い──って、そんなことはない! いや、女児はみな足は短いものなのじゃ。頭部と胴体のバランスというものがあるからの。そんなことよりもリプ子が──!」
やっぱり地団駄を踏むオリ子。
「まってくださいよオリ子さん。神子島尊が初代イコライザーということは、僕は何代目なんですか?」
「イコは6代目じゃな。これまで、すべてのイコライザーは使命を全うすることなく死んでいったのじゃ。つまり、本当の意味で死んだわけじゃ。そのたびにリプ子が時を巻き戻してきた。あやつは働きものじゃなからな」
「ふむふむ。けど、それならなぜ、神子島尊さんもイコライザーの力を持っているんですかね? 時をやり直しているのなら、神子島尊さんが得た力は『なかったこと』になっているはずでは?」
「まぁ、そこはいろいろとあったのじゃ。というわけで、お主も分かったじゃろうイコよ。新しいダンジョンを作るのは勝手だが、ほかにもやるべきことがあるということが」
原点へ。
初心にかえるときがきた。
「イコライザーのやるべきことって、最上級国民を殺すことですね! ……しかし、最近けっこう殺しちゃったせいで、なんかこう、殺る気が失せたというか。ところでオリ子さん。話はかわりますけど。向こうでデス子さんと会いまして」
オリ子は顔をしかめた。
「デス子? あやつ、まだ死んでなかったのか」
「オリ子さんに対して、貸した金を返せと」
「デス子? あやつ、まだ死んでなかったのか」
「ですから、貸した金を返せと」
「デス子? あやつ、まだ死んでなかったのか」
「オリ子さん、現実を見てください。借りたお金はちゃんと返さないとダメですよ」
「イコよ。特別に、デス子の攻略法を授けよう。必ずや、あのキチ●イ女児を殺すのじゃ!!」
なんて人だ。借りたお金を返したくないからって、友達を裏切ったぞ。
さすが【三千世界のラスボス】と言われるだけのことはある。尊敬!